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先程の修学旅行の行き先がフランスだと言われた時以上のざわめきがクラスを襲う。
余りに収集不可となる程の騒ぎになったために、たまこ先生は教壇を思い切り叩きつけて皆に怒鳴りつける。
「黙らしやーッ!」
何故に広島弁なのかはどうでもいい。それよりも天童紘汰だ。退学とは一体どういう事なのだろうか。
「正式には退学と言うよりは転校と言った形になります」
あたしはスッと立ち上がり、たまこ先生を怒鳴りつけるように尋ねた。
「一体どういうことなんですか! 天童くんに一体何があったんですか!」
たまこ先生はあたしの気迫に押されつつも、宥めに入る。
「白鳥さん、すこし落ち着きなさい。とりあえず座りなさい」
「すいません……」
あたしは小さくなるようにしゅるしゅるとしながら席に座った。
たまこ先生はおもむろに天童紘汰の退学理由を語り始めた。
「彼は知っての通り、古くから続く和菓子屋の息子さんです。あの若さで天童赤鷹の主任という立場でもあります。この平成の時だ…… 今は令和でしたね。和菓子と言うものは常に成長しつづけるもので、洋菓子の技術を取り入れないとやっていけなくなったそうです。先生は全く専門外の畑違いのことなので分からないのですが…… 彼の話を掻い摘んで話すとこんな感じです。そのようなわけでフランスのお菓子作りの名門校に転校して、尚且、パティスリー…… お菓子屋さんのことだったかな? そこで修行をするそうです。だから、この学校をやめると言うことになったのです」
前向きな退学か…… いじめで退学(ありえないけど)とか単位が足りなくて留年するぐらいなら退学するとかフザけた理由じゃなくて良かった。あたしは何故か胸をなでおろした。あいつの為になでおろす胸なんかないのに……
「それで、先生の方からお別れ会を提案したのですが…… 本人の強い希望で何もしなくていいと言うので、皆さんには私の方から報告する流れとなりました。事後報告と言う形で皆さん受け取って貰って結構です。本人こそいませんが、彼の前途を祝しての拍手をしたいと思いますので、お手を拝借」
お手を拝借は三本締めや一本締めの時だけのような気がするけど…… その手、借してあげましょ。
教室内に祝福の拍手が鳴り響く。だが、その拍手を受けるべき本人が聞くことは無い……
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