2 柏餅を食べよう! 天駆けゆく子らよ

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2 柏餅を食べよう! 天駆けゆく子らよ

「決めたわ! あたし、絶対にあんたに美味しいって言わせるようなお菓子作ってやる! 覚悟しておきなさい!」 あたし、白鳥花緒莉が作ったチョコレートケーキを不味いと和菓子屋の馬鹿ボンボンの天童紘汰に言われ、それが死ぬほど悔しかったのでこんなことを言って宣戦布告みたいなことをしてみたものの、どんなお菓子を作ればいいのかが分からない。 そもそもあいつの趣味がわからない。下手にあいつの土俵に立ちあんこを使った和菓子を食べさせたとしても敗北は必至。かと言って下手な洋菓子でも苦すぎるだの甘すぎるだの言われての敗北は必至。 何で戦いを挑もうか迷っているうちに、世間は4月の下旬を迎え、ゴールデンウィーク直前の金曜日を迎えていた。 あたしはと言うと眠気に耐えながらホームルームで教師のゴールデンウィーク前の心構えの話を聞いていた。まぁ、高校生らしい過ごし方をしなさいと言う話だ。 ダラダラ過ごすな。遊びすぎるな。事故には気をつけろ。と、言った夏休み前にするような話に近いが、長いけど短いゴールデンウィークの話になるために話もそれと違って多少はミニマムなものとなっている。 あたしはその退屈な話を聞くのに耐えきれずにこっくりこっくりと船を漕ごうとした時、 タイミングよくホームルームが終わった。そして、体が鉛のように重い状態で号令をすませたところで担任教師の小田切たまこ(おだぎり たまこ、あだ名はたまこ先生)が、あたしの眠りを覚ますように声をかけた。 「白鳥さん? ちょっといいかしら?」 「のわっ」 あたしは何とも素っ頓狂な声を上げてしまった。あたしはそれを恥ずかしがりながら、たまこ先生の立つ教卓の前に呼び出された。 「白鳥さん、あなた……」 あたし、何かやらかしたかな? 授業中よく机に突っ伏して寝ていることで他の先生から苦情でも入ったのかな? あたしは内心ガクガクブルブルと震えていた。 「えっと? 家庭科の先生から聞いたんだけど、お菓子作りが趣味らしいわね?」 そう言えばこの前のチョコレートケーキ、家庭科の先生から凄く評判がよかったな。それでお菓子作りが趣味だと言う話をしたような気がする。 「ところで、ゴールデンウィークとかどこかに予定とかあったりする?」 「無い…… ですね…… 遠出の予定も無いので友達と町中に遊びに行こうかと」 あたしは目を反らしながら言った。長期連休だからと言って出かけなきゃいけない法律なんかあるわけがない。家から出ずにずっとゴロゴロする長期連休があってもいいじゃないか。 それにあたしの家は両親共にサービス業で長期連休中には休みの人間をもてなす側の仕事をしている。そんな家にゴールデンウィークの予定があるわけがない。 「うちの学校の近所に児童養護施設があるの知ってるかしら?」 「ああ、今鯉のぼり立ててるところですよね?」 あたしの通う高校の近くには児童養護施設がある。名前は確か「こばと園」そこの子どもたちは元気が良く、教育も行き届いてるのか、人とすれ違う時に頭を下げて挨拶をする。
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