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その日の夜、あたしはリエと電話で話していた。今日あったことをかいつまんでかいつまんでと言った感じだ。
「本当に面白いわね、ゆうくん」
「どこが」
そんな話をしているうちにいつの間にか天童紘汰の話になっていた。あたしはクチを滑らせて天童紘汰のフランス行きの飛行機の話をしてしまった。
「面白いこと聞いちゃった。あたしがクラスの皆に音頭取るから、皆で見送ろっか。高一最後の思い出として」
「やめなよ、あいつだって照れくさいって言っていつ行くか知らせなかったんだし」
「けど、一年付き合ってたあたしらに何の挨拶も無しに去ってくあいつも大概だと思うよ。だから空港で皆で出迎えてサプライスしてやるのよ」
アホくさ。これからクラスのSNSのグループで千羽鶴折ることを拡散して促したり、当日は皆で万歳三唱しようとかリエは言っているが、その言葉は全て右から左に通り抜ける。つまり、あたしはロクに聞いていなかった。
「じゃ、花緒莉も何するか考えといてね。それなりに因縁あるんだからさ」
因縁…… もう少し言葉を選んだらどうだろうか。
通話を終了したあたしはベッドに体を埋めた。顔を枕に押し付け、視界が途切れて考えることは天童紘汰のこと、折角作ったチョコレートケーキを「不味い」と言われたトラウマが蘇る、これからいくつもお菓子を作るが終ぞ「美味しい」の言葉を貰うことは出来なかった、今更になって悔しく思う、唐菓子以降は気にしないように気にしないように努めてきたが、やっぱり気になるものは気になる。変な時にあたしの負けず嫌いが頭をもたげてきたものだ。
枕から顔を上げて寝返りを打って自分の机の上を見れば、そこにあるのは深めのクリスタルガラスの瓶に入れられた桜の枝、今日、拾ってきたものだ。玄関先に飾って置こうと思ったが、心変わりを起こして自分の机の上に置くことにした。部屋の中には芳しい桜の花の薫りが広がっている。
「そっか…… あいつ。いなくなるのか…… 不味いって言われっぱなしであいつとの関係も終わるのか…… 悔しいなぁ……」
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