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「おいおい、お前が作ったわけでもないのに何喜んでるの?」
それを聞いたあたしは口端を上げてニヤリと微笑んだ。ここから衝撃のネタバレだ、気づいたら気づいたで逆に面白かったんだけどな。
「中身だけ入れ替えたの。その桜餅、あたしが作ったのよ」
「はぁっ? お前にこんな美味しい桜餅が作れる訳が……」
「本当だぜ、俺、作るのも中身詰め替えるのも見てた」
どこからともなく現れた梟首一郎があたしがこの桜餅を作ったことのお墨付きをくれた。
お墨付きも何も、あたしが空港に行って梟首一郎に頼んでつばめ寿司の調理場を借りて作ったんだ、変なことをしないように監視の意味も込めての立会人になってもらったんだ。
立会人としては最高の人選だし、彼以外に出来るその役目が出来る人はいない。
いきなり調理場を貸してくれと友達とは言え一介のアルバイト従業員に頼んだあたしのおかしさを指摘しないのは助かるところ、それを突っ込まれたら流石に困る。
「それにしても、これ完璧にうちの味じゃないか…… いや、うちのより…… 俺が作る桜餅より美味しいぞ」
ついに天童紘汰に勝ってしまった。勝因は作りたての温かいものを出したことと、慣れ親しんだ味を出すために使ったあれのお陰だろうか。
「ちょっと聞いていいか? この葉っぱ、どこから持ってきた…… って聞くまでもないな。これはうちの土地で使ってる桜の葉っぱの薫りだ」
こんなことまで分かるのか、やっぱりこいつの味覚は凄いとか言いようがない。
「一緒に花火みた丘よ。最近、ふらりと立ち寄ったから持って来ちゃった」
「おいおい、人んちの土地に入り込んで枝パクるなんて悪い奴だな」
それを指摘されると正直痛い。あたしとしてはどんぐりを拾って持って帰ったりする感覚だった。
「ま、素直に言ったし、折った訳でもないだろうから許してやるよ」
ワシントン大統領も素直に言って許された。やっぱり素直でいることは偉大。
それから天童紘汰はもう一口桜餅を口に入れた、葉っぱごとサクリと一気にいく。
「それに、葉っぱが柔らかいな。フツーは葉っぱ食べないんだけど、一緒に食べても問題ないし」
「重曹に漬けたのよ」
「重曹って…… 理科の実験とかで作る葉脈標本とかのアレか?」
「そう、柔らかくなる程度でいいから時間はほんのちょっぴりだけどね。少しでも時間間違えると葉脈だけになったり、ドロドロになったり大変だったのよ」
確かに葉っぱを柔らかくするのは大変だった。弟がバリバリ葉っぱごと桜餅を食べているのをみて「柔らかく出来ない」かな、と遊び半分で考えたら、いつしか真剣になってたどり着いたのが重奏漬けだ。柔らかくした後は定石通りに塩漬けにする。そうすれば違和感なく葉っぱと一緒に食べることが出来る桜餅の完成だ。
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