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「それに中のあんこ…… 葉っぱの塩と、皮に使った道明寺に混ぜた塩ともよく合ってて甘いぞ。どんなあんこ使ったんだ?」
「市販品のこしあん」
「ありえないぞ! これうちの自家産のあんこに勝るとも劣らないぞ!」
「バター。バターとお醤油混ぜたの。お醤油は以前にあなたが言ってた九州産の甘口醤油、あんたが前に言った通りにあんこに混ぜてコクを増したの」
「お前、これから柏餅作るんだろ? あんこの中に醤油混ぜな。あんこの中に醤油入れるとあんこにコクが生まれて美味しくなるぜ」
「あんこに醤油なんて……」
「ただの醤油じゃない。九州の醤油だから甘いぞ。これならお前でも子供にウケる柏餅が作れるはずだ。ありがたく受け取れや」
「へー、あんこに醤油入れると美味しくなるんだ。今度試してみよっ」
「柏餅の時に俺そんな事言ったなぁ……」
「それをやっただけのこと、あたしじゃがバター好きだからここから更にバターを混ぜてまろやかかつコクを増したんだけど。おかずの用法だってイチャモンつけてノーカウントにする?」
「しねーよ。こんなこと」
あたしはやっと勝ったんだ…… 4月のあの日、あたしのチョコレートケーキを不味いと言い放った天童紘汰にやっと勝ったんだ。これまでの苦労が全て報われたんだ。
あたしの心は達成感に満たされていた。
勝った後になにがあるのか…… 確かに達成感からくる嬉しさの感情はある。だが、その後に勝って何になったのだろうかと言う虚無感も同時に襲いかかってきた。
何をするでもないので、あたしは家に帰ることにした。あたしは上がりのエスカレーターに向かって歩を進めた。天童紘汰はそれを引き止める。
「おい! 待て!」
「何よ」
「俺、お前に言いたいことあるんだわ」
「あたしとしてはもう目的終わってるし…… 話することもないし…… フランスで修行、頑張ってね。んで、将来凄い人になってね? あたしはその凄い人に美味しいと言わせたお菓子を作ったこと自慢にして生きていくから」
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