9 出発《でっぱつ》の桜餅

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「わかったわかった、自慢でもなんでもしてくれ…… それで、お前に言いたいことって言うのはな……」 その時、天童紘汰の乗るフランス行きの便の搭乗手続きのアナウンスが流れた。 あたしは天童紘汰に早くそちらに行くことを促した。 「搭乗手続き。さっさとしないと」 あたしは天童紘汰の背中を押した。すると、天童紘汰は寂しそうな背中を見せながらトボトボと自らが乗る航空会社のカウンターへと歩いていった。 あたしはそれを見て踵を返してほっと息をなでおろした。これであいつとの縁も終わりか、不味いと言われて辛いと思ったこともあったけど、これも今となってはいい思い出。 あたしはこれからも美味しいお菓子を作り続ける…… いつまでも。 「白鳥さん? ちょっといいかな?」 梟首一郎があたしに問いかけた。 「何よ」 「気が付かなかった?」 「だから何によ?」 梟首一郎はやれやれと言った感じでお手上げのポーズを取った。 「白鳥さんのそういうところ、好きだけど、嫌いでもあるんだよね」 「ちょっとー、だから何なのよ」 「ああ、俺からいうのもなんだけど……」 その時、時報のアナウンスが入った。梟首一郎はそれを聞いてハッとする。 「あ、ごめんね。俺の休憩時間もうすぐ終わるから」 そう言って、梟首一郎は慌てて走り去ってしまった。 梟首一郎と別れてあたしは一人電車に乗って家路に就く。勝った後は高揚感に押しつぶされるかと思ったが、全然そんなことはなく虚しさだけが残る。 人間、目標が無くなるとこんな感じに腑抜けるのか。 しっかりしないとな…… でないと、あいつに馬鹿にされたように嘲笑(わら)われる。
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