10 エピローグ、太陽の中心で交わしたキスは甘くて苦い

3/7
前へ
/122ページ
次へ
言うに事欠いて、お菓子を不味いと言ってしまったのだ。当然、彼女は俺につっかかってくる。罵倒と言う疑似餌(ルアー)に食いついてきた。それが俺と彼女との最初の接点だ。 今にして考えれば世界一嫌なファーストコンタクトだ。 幸い、生まれながらに舌は肥えているおかげか、欠点を見つけてイチャモンをつけることは出来る。初めに食べたチョコレートケーキも苦みが強いのは本当だったが、決して不味くは無かった。 それから彼女は何かと俺にお菓子を食べさせにくるようになった。ここで「一度でも美味しい」と言ってしまえば俺と彼女の縁は切れてしまう。それが嫌だった俺は何かと理由をつけて「駄目だな」の一言からケチをつけるにした。今だから言うが、ポテチの時は本気で美味しかったためにケチの付け方を必死で考えてしまった、結局、これはおかずだと言う無茶苦茶なウルトラC理論で切り抜けた。 あの時は、本当に危なかった…… 彼女は負けん気が強いのか懲りずに何度も何度も俺にお菓子を食べさせにやってくる。いつしか俺も彼女が持ってくるお菓子を楽しみにするようになっていた。 お菓子以外にもいくつか接点があった。寿司屋で偶然に会った時はもうテンション爆上げで困ったものだ、同じ席で食事が出来たときはもう死んでもいいとさえ思ってしまった。 彼女は年齢差のある弟のことが大好きなのか、やさしい。その優しさを万分の一でもいいから俺に向けてくれよと本気で思ってしまった。 夏祭りの時もそうだ。友人に誘われて渋々行ってみれば、超可愛い浴衣を着たあの子がいるじゃないか。この後、偶然が起こり二人きりになれたときは神さまに本気の感謝をした。 本当は全員をうちの土地の丘に連れていくつもりだったが、二人きりになれたことで予定を変更した。好きな女子と一緒に花火を見られたことは本当に至福の時だった…… その少しあとの唐菓子の件はやりすぎた、いくら罵倒をしても構わずに俺に接してくれることをいいことに子供みたいな悪口まで言ってしまった。その後に実質の決別宣言をされて、調理実習のお菓子すら食べさせてもらえなくなる。あの時は流石に死にたくなった…… 彼女が見舞いに来た時のこと…… 実際は三日程で体調は戻っていたのだが、この頃にはフランス留学が決まっていたので、日本の高校の単位なんかどうでもいいと考え、のんびりと連休をとることにした。すると、心配してくれたのか(どうせ溜まったプリント渡すだけだったんだろうけど)見舞いに来てくれた。俺から促しておいてなんだが、直接缶詰を食べさせてくれた時は心臓が爆発しそうな鼓動を叩いていた。よく生きてたな、俺。 あの時の練り切りは俺にとっての和菓子作りの人生の中の最高傑作だ。好きな人に対して作るお菓子は特に気合が入るというもの。 爺には彼女のことが好きだと言って見極めをお願いした。爺曰く、素直ないい子とのことだ。亀の甲より年の功、人をよく見てる。 クリスマス会の時は…… 声は綺麗なのに、まさかの音痴で驚いた。人間それなりに欠点の一つもあるだろうからそれはあまり気にしない。それよりも、あんこを使ってブッシュ・ド・ノエルを作り、あんこが嫌いとされる子どもたちすらも納得させる味を作ったのは本当に驚いた。そのためにうちのあんこを使ってくれたのは本当に嬉しい、俺が頼りにされたと胸が熱くなるぐらいに嬉しくなったが、実際に頼りにされたのは天童赤鷹か…… と、思うと少しがっかりしてしまった。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加