20人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「ご近所ってことで毎年毎年、こどもの日にはうちの学校から生徒を何人か派遣してもてなしをするのよ」
「はぁ……」
「そのもてなしのうちの一つに柏餅を作るっていうのがあるのよ」
「柏餅…… ですか?」
「そう、前までは家庭科の先生が作ってたんだけどね。家庭科の先生今年は婚活パーティーの大詰めだそうで参加出来ないのよ」
家庭科の先生…… 独身だったんだ。あたし達に花嫁修業みたいなことをさせているのに自分は花嫁じゃないとはこれ如何に。
「そこでね、今年はあなたに柏餅を作ってもらおうと思うのよ」
「え? 何でですか?」
「家庭科の先生からあなただったら大丈夫ってお墨付きを貰ったのよ」
人様の連休の予定を潰すようなお墨付きなんていらない。でも、その予定がないあたしは虚しい。しかし、お菓子作りの腕でその予定が埋まるなら望むところ。
俄然ファイトが湧いてきた。
「柏餅…… で、いいんですよね? 毎年、うちの家族に作ってるんで別に構いませんけど」
あたしは端午の節句の和菓子の作り方はコンプリートしている。柏餅、ちまき、武者鯉、何でもござれよ。ん? 和菓子?
あたしの心の中に引っかかるものがあった。あたしは首をぐぃーと動かして未だに帰り支度も始めずに友人と談笑する天童紘汰の姿を見た。
「和菓子だったら天童くんのお店にお願いすればいいんじゃないですか?」
あたしみたいな素人に任せるよりもプロ中のプロに任せばいいのではないか。
当然の疑問をたまこ先生に投げかけると、彼女はあたしと同じように首をぐぃーと動かして目を反らした。
「児童養護施設って…… あんまりお金無いのよ……」
確かに言われてみればそうだった。こばと園の子どもたちの背負うランドセルは年期の入ったものだ、おそらくは使いまわしが行われているのだろう。あそこにいる新中学生が着る制服も卒業生から譲ってもらったのか新品っぽさが全くない。
タイガーマスクの目につかない児童養護施設はこんな感じか。全く、世は無情だ。
「高級そうですよね……」
「あそこの子の全員分頼んだら後のご飯が数ヶ月塩粥になりそうな」
あたし、塩粥大好きなんだけどな…… そう思いながら苦笑いをした。
引き受けた以上は全力でやらないと。あたしは翌日より柏餅の試作にとりかかった。学校側も厚意で試作用の原材料と調理実習室を貸してくれるとのことで、あたしはゴールデンウィーク初日にも関わらずに学校に足を運んでいた。
「変なこと引き受けたよね」
あたしは一人で黙々と柏餅を作るのも虚しいと思ったのでリエをお手伝いとして呼ぶことにした。リエもあたしと同じくゴールデンウィークは何も予定が無く暇つぶしにはなると言うことで喜んで協力してくれるとことだった。
流石は持つべきものは親友! 結婚しよう!
「ちょっといいかな?」
リエがあたしに尋ねた。何でも聞いてくれ給えよ。
「柏餅ってどうやって作るの? うち、男がパパンしかいないから端午の節句とか何もしないのよね。食べることあってもスーパーで買っちゃうから……」
あたしはリエに柏餅の作り方を説明することにした。あたしには年の離れたクッソ生意気な弟がいるために5月は鯉のぼり立てたり鎧着たりで何かと忙しい。端午の節句にやるべきことはだいたい分かっている、柏餅の作り方もそのうちの一つ、簡単い簡単い。
最初のコメントを投稿しよう!