10 エピローグ、太陽の中心で交わしたキスは甘くて苦い

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「白鳥!」 俺が叫ぶとその集団は一斉に俺の方を見た。当たり前だ。肝心の白鳥花緒莉は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして驚いていた。どんな顔していても可愛いから困る。 白鳥花緒莉は俺に向かって小走りで寄ってきた。その右手には紙製のケーキボックスを持っている、俺の修行先のパティスリーで使われているものと同じだ、いつだったか折り紙を折るように一日中組み立てをしていたことがあるので間違えようがない。 他の女子も俺に気がついたようだった。だが、俺と白鳥花緒莉の関係を知ってか、邪魔してはならぬと、さっさと螺旋階段の方に向かった。 ありがたい。特に白鳥花緒莉の親友の蒼井リエのやつなんか気になるだろうに……  俺たちは凱旋門の正面比較的開けた場所に出た。とりあえず俺は白鳥花緒莉が何故ここにいるのかを尋ねることにした。答えは決まっているが。 「久しぶり、ところでどうしてこんなところにいるの?」 「修学旅行に決まってるじゃない。ゴールデンウィークも終わったばかりのド平日よ今日」 そりゃそうだ。 「天童くんこそどうして?」 「何だよ、俺が凱旋門に来ちゃいけないのかよ」 いかんいかん、どうも前までのクセが蘇ってぶっきらぼうに接してしまう。 「世間…… 世界って以外に狭いよね」 「そうだな」 それからしばしの沈黙が俺たちを襲う。会話を広げられない俺が悪いんだな、きっと。 俺は気になっていたことを尋ねた。 「どうして俺の店のケーキボックス持ってるの? 今日休みだったよね」 「ああ、修学旅行のコースでパティシエ体験が入ってたから作ったの。ケーキ。ちなみに明日はルーブル美術館を駆け足で」 駆け足だと有名所見て終わりだろうな…… 人混みを掻き分けてモナリザとか。 「そう言えば、ケーキって何のケーキだ? 体験会なんだから難しいもんじゃないだろ?」 それから白鳥花緒莉はケーキボックスを開けた。中に入っていたのはココアパウダーをたっぷりとかけたチョコレートケーキだった。 「そうよ、あんたが約一年前に不味いって言ったチョコレートケーキよ」 それに関しては何にも言えねぇ、ただ、言うなら「済まない」しか言葉が出てこない。 「講師の先生が好きに作っていいって言うから、ほぼ指示なしでいつも作ってるものを作ったの」 その講師の先生、俺の師匠かもしれない…… 指示なしってどんな了見だよ。 「じゃ、貰っていいか? それともホテルに戻った後に誰かにあげるのか?」 「あげないわよ…… 全員同じ体験に参加してたんだし。あたしが自分で食べるつもりだったの」 「じゃ、貰っていいってことだな」 図々しいような気がしたが押し切った。白鳥花緒莉の作るチョコレートケーキを一年ぶりに食べる。今度のは前に食べた二個のケーキと違って甘すぎす苦すぎず、バランスの取れたものだ。 「食べながらでいいから聞いて」 俺はこくりと頷いた。
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