2 柏餅を食べよう! 天駆けゆく子らよ

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帰宅後、あたしは自宅にて弟におやつを作っていた。弟、白鳥勇気(しらとり ゆうき)はテーブルをガンガンとフォークを握った拳で叩きながらあたしの作るおやつを待つ。 小学校ニ年生らしく落ち着きがないクッソ生意気な弟。しかし、テーブルをがんがんと叩く姿は幼稚園児っぽい。 「ねー? おねーちゃん? おやつまだー?」 今作ってるんだからちょい待ちなさいな。あたしは弟の要求する声をBGMにして鍋の中でぽこんぽこんと泡を立てて液体化したチョコレートをかき混ぜていた。その横の流し台に置かれたまな板の上には(へた)を切ったイチゴと一口サイズにカットされたバナナ、パイナップル、キウイが置かれている。 チョコレートをかき混ぜているとまだ軽く重さを感じる、水をかき混ぜていると言うよりは粘性のある水飴をかき混ぜているような感じがした。かき混ぜていたゴムベラを取り出して指先で軽くぺろり。ミルクチョコレートを溶かしたのにまろやかさが少ない…… あたしは踵を返し冷蔵庫から牛乳を取り出して、チョコレートが溶けた鍋の中に入れた。 茶色だった鍋の中のチョコレートの色が薄くなる。それから少し冷ました後に深みのある小皿に入れて弟の元へと持っていく。それからまな板の上に置かれたカットフルーツ郡を大皿に乗せテーブルの中央に置く。弟は色とりどりの宝石箱を思わせる大皿の上に乗ったカットフルーツ郡をキラキラした目で眺めていた。 ぶっちゃけた話、カットフルーツ郡でもおやつとしては十分だが、今回はあたしのこだわりで更にもうひと手間加えている。 「チョコレートフォンデュの出来上がりー」 弟は首をくいと傾げた。その口元には既にチョコレートが付着している。大皿を持ってくる間につまみ食いしやがったな。この目ざといやつめ。 「チョコだけベロベロ嘗めないでよ」 弟はフォークで大皿の上に乗っていたイチゴを突き刺し、小皿の中のチョコレートにどっぷりと浸した。イチゴを持ち上げるとその赤い果実よりチョコレートがダラダラと垂れる。 「ちょっとぉ、テーブルに垂らさないでよ」 弟はあたしのその言葉に構わずにチョコレートをぽたぽたとテーブルの上に垂らしていく。 誰が掃除すると思っているのか。 あたしもチョコレートフォンデュに手を出した。イチゴにバナナにパイナップルにキウイ、どれも酸味がある果物。その酸味がチョコレートの甘みと良く合う。 「ねーねー、おねーちゃん? チョコレートの噴水みたいに出来ないのー? 浸けるだけじゃおもしろくないよー」 あまえんな。何処でチョコレートファウンテンなんて覚えてきたのだろうか。あたしはその生意気な口にチョコレートをたっぷりと浸したパイナップルを押し込んでやった。 チョコレートファウンテン。溶かしたチョコレートを噴水状にして流す装置。ホテルや結婚式場でしか見られない高級感溢れるものであったが、最近では家庭用も市販されている。 弟は一心不乱にチョコレートフォンデュを食べ続けている。子供の大好きなチョコレートとフルーツの二重奏の相乗効果はやはり絶大なのだろうか。チョコレートを溶かすと言う手間こそかけたが、この弟の笑顔を見ているだけで手間をかけるのも悪くないと思うし、嬉しく感じる。この笑顔があるからこそあたしはお菓子作りを続けているんだなぁと実感する。 「おねーちゃん、もうすぐこどもの日だけど何作るの? また柏餅? たまにはケーキ食べたいな」
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