2 柏餅を食べよう! 天駆けゆく子らよ

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そして、5月5日。こどもの日を迎えた。 こばと園では大きな鯉のぼりが揚げられていた。雲ひとつ無い晴天に爽やかな風に吹かれて真鯉も緋鯉も子鯉も蒼穹の天空(そら)を歌そのままに泳いでいる。うちの一軒家のベランダにも泳いではいるが比較にならない。 頂上に付いた矢車がカラカラと音を立てる中、あたしはこばと園の中に入った。玄関に一歩入った瞬間に腕白坊主達がドタドタと走り回っているのが目に入る。元気でよろしい。 園内をしばらく進むと、こどもの日の会が行われる食堂に着いた。リエが子供達を相手にして折り紙を折っていた。食堂のテーブルの上には兜やら鯉のぼりなどが置かれており、子供達はたった一枚の色紙が姿を変えていくのを見て、魔法が行われるかのように目をキラキラと輝かせていた。 「やっほー」 「おはよう」 「よう」 リエの隣には天童紘汰がいた。どうしてこんなところにいるのよ、馬鹿ボンボンの御曹司が! あんたお金持ちなんだからハワイでもパラオでもどっか南国の海でチャラチャラパラセイリングでもしてなさいよ! 店が忙しくてもどうにかなるでしょ? あたしは心の中で「げっ」と言いながら訝しげな顔をした。 「何だよ、俺いちゃいけないのかよ」 あたしは嫌なことがあるとすぐ顔に出るタイプだ。言葉を発さなくても相手に気持ちが伝わってしまう。 「何しに来たのよ」 「ボランティア活動だよ」 「へー、お金持ちもボランティアするんだ……」 「フッキーに頼まれてな」 天童紘汰は梟首一郎のことをフッキーと呼んでいる。初めて友達になった時の自己紹介で梟首(きょうしゅ)をそのまま『ふくろうくび』と呼んだらしく、それ以降フッキー呼びとのことらしい。しっかり名前ぐらい覚えて上げなさいよ…… あたしは天童紘汰と目を合わせたくなくて、テーブルの上に乗せられた折り紙をチラリとみた。折り紙の兜なのだが、よく見る折り紙の兜の形ではなくて、平安時代の戦略的優位性も無さそうな派手な大鎧の兜の形に折られていた。耳横についた吹返に立派な鋭角の鍬形までもついた本格的な形だった。
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