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食堂の奥で走る幼稚園児ぐらいの少年の頭には新聞紙で折られた兜が乗せられており、100円均一で買うようなスポンジの刀でチャンバラごっこに興じる子ども達がいた。
「あの兜、あんたが折ったの? 本格的な折り方してるね」
「まぁな、うちだって端午の節句のお菓子ぐらい作るんだぜ? 飾り付けで横に置いとく折り紙作るのとかやらされていたからな」
「ふーん」
あたしが無関心そうにしていると天童紘汰は鞄から業務用の醤油の瓶を出した。
「お前、これから柏餅作るんだろ? あんこの中に醤油混ぜな。あんこの中に醤油入れるとあんこにコクが生まれて美味しくなるぜ」
「あんこに醤油なんて……」
「ただの醤油じゃない。九州の醤油だから甘いぞ。これならお前でも子供にウケる柏餅が作れるはずだ。ありがたく受け取れや」
九州の醤油。九州の醤油は甘く作られている。南国でサトウキビが採れやすく砂糖が容易に手に入りやすく醤油の製造過程で砂糖を大量に入れるようになったことから九州の醤油は甘くなったとされる説がある。他にも漁師の糖分補給説、辛口の焼酎を好む九州人に合わせた説もある。
「へー、あんこに醤油入れると美味しくなるんだ。今度試してみよっ」
「今やれよ」
あたしは笑顔で醤油を突き返した。天童紘汰は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚いた。
「ご生憎様だけど、今回はあんこ使わないんだ」
「おい! どういうことだ! 柏餅やめちまったのか?」
「いーや、ちゃんと柏餅よ」
「おい! あんこも使わずに柏餅なんて!」
あたしはリエを手招きした。
「いこ? 手伝って」
「おいゴルァ! まてや!」
天童紘汰は何か言っていたようだが、あたしはそれを聞きもせずにリエと共に厨房に向かった。厨房にはあたしが指定した通りの材料が揃っていた。
「え? どうしてこれが……」
リエは不安そうな顔をしてあたしの顔を見る。この前、柏餅を作る時に使った材料が柏葉だけになっており、他は全て変わっていたことに驚いていた。細工は流々、仕上げをじっくり御覧じろってね。
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