1 くらえ! あたしのチョコレートケーキ!

2/10

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
放課後、あたしは脇目も振らずに調理実習室に駆け込んだ。 調理実習室には当たり前だが調理台がいくつも並んでいた。あたしはそこの隅を借りることにした。 幸い、あたしの高校には家庭科部や調理部やスイーツ部なんてものはない。放課後になれば調理実習室は完全空白、つまり好きに使っていいとのことだった。 あたしはまだ僅かにチョコレートパウダーの付着したエプロンをセーラー服の上に纏い、再びチョコレートケーキの作成に取り掛かる。 チョコレートケーキに使う材料だが、本日の調理実習がチョコレートケーキの作成だったために冷蔵庫に余っていた。 念の為に家庭科の教師に聞いてみたところ 「特進クラスなのに熱心なのねぇ」と、褒められてしまった。 あたしは特進クラスに所属している。正直な話、特進クラスでは家庭科、体育に対して熱心に取り組む生徒は少ない、なぜなら「受験に関係ない」からだ。家庭科の教師も体育教師もそれを分かっているのか、あまり熱心さを感じない。 座学の授業ともなれば教科書の朗読だけで終わることも珍しくない。 やる気のない教師の朗読は下手な睡眠導入剤よりも余程効果があるのか、皆、最高の安眠タイムにしている。 あたしも、保健体育の座学の時には流石に寝てしまった。 まず、チョコレートケーキの扇の要とも言えるジェノワーズショコラを作ることにした。 ジェノワーズショコラ。いわゆるスポンジ、チョコレートケーキ用に茶色いスポンジのこと。 卵を二個、ボールに入れる。あたしは手慣れたもので卵など片手で割ることが出来る。流れるような動作(シークエンス)で卵を二個、ボウルの中に放り込む。 ボウルの中に二つの太陽がさんさんと輝いた。 そして砂糖を大さじですりきり8杯、約60グラム放り込む。 ボウルの中の二つの太陽に白い雲がかかった。 白い雲のかかる二つの太陽の入ったボウルを更に大きなボウルの中に入れる。そのボウルの中には湯気の立ったお湯が入れられている。そのお湯の熱が伝わり、白い雲のかかる二つの太陽はますます白くなった。 湯煎に当てる。大きな容器に湯を沸かし、その中に一回り小さな容器を入れて、内側の小さな容器を食材ごと間接的に加熱する調理法。 火で直接加熱せず、湯での加熱するために焦げ付きの心配が無い。 このまま放置しては単なるとろとろ目玉焼きになってしまう。あたしはホイッパーで二つの太陽を潰し、泡が立つまでかき混ぜた。 皆、この作業は手が疲れると機械頼みになるが、 あたしは毎回それを自力でかき混ぜる。昔からメレンゲ作りなどでやっていることなのでもう慣れっこだ。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加