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数時間後、あたし達は柏餅を完成させた。
こどもの日のパーティーが始まった。あたし達はこばと園のスタッフが作る手作り感のある節句料理をオードブルの盛り合わせのように並べていく。極彩色の寿司と揚げ物が中心なのかあっという間に節句料理は子どもたちの腹の中へと消えていく。
そして、節句料理の皿が片付いたところで入れ替わりであたしの作った柏餅がやってくる。それを見た瞬間に子どもたちが渋い顔をし始めた。あんこが嫌いな子どもが多いとこんな反応もやむなしか。
何人かの子どもたちはスッと席を立ち、また何やら遊びにかかる。柏餅を食べる意思はないという意思表示か…… 生で見るとへこむなぁ。
梟首一郎は済まなそうな顔をしてあたしに頭を下げる。別にあなたが頭下げる必要なんかないよ。それから彼は一人の少年に柏餅を食べることを促した。
「ほら、折角お姉ちゃんが作ってくれたんだから」
少年は頬を膨らませて嫌そうな顔をした。
「えー、甘ったるい、皮がごわごわするのが嫌い、あんこ不味い」
製作者を目の前にしてそれを言うか。普段すれ違いの時に挨拶するぐらい礼儀の正しい子どもでも家(施設)の中ではこんなものか。
「こら!」
「いいよ、気にしないで」
あたしは梟首一郎をいいよいいよと窘めた。そして、天井を見上げながら少年に言った。
「柏餅が美味しくなるように魔法をかけました! 一口だけでもパクってしてくんないかなぁ?」
少年は「何言ってんだこいつ」と言いたげな馬鹿にしたような目であたしを見つめる。
ちょっと心が傷ついたかも…… 流石に子どもを馬鹿にしすぎただろうか。
それを横で聞いていた天童紘汰も白けた目であたしを見つめる。
別にいいや。
少年は一口柏餅を口に入れた。目を細めて白けたような表情だったのが、いきなり目を見開き真剣な表情に変わり、あっと言う間に柏餅を完食してしまった。そしてスッと立ち上がり食堂の隅でチャンバラごっこに興じていた友人達の元に向かう。
「おい! 今年の柏餅スゲーうまいぞ!」
少年はこちらにも聞こえるぐらいの大きな声で叫んだ。チャンバラ少年たちは気怠るそうにテーブルに戻り腰を下ろし、そんなことあるわけ無いだろうと言いたげな渋い表情で柏餅を口にする。先程の少年と同じようにいきなり表情を変えて一心不乱に柏餅を食べ始めた。
手が伸びていなかった他の少年少女達も美味しそうに食べるその姿を見て一斉に柏餅に手を伸ばす。
子ども達は皆、笑顔で柏餅を食べる。初めての光景にこばと園の先生方は驚いていた。
何故に調理を手伝ってくれた先生まで驚いているのだろうか。調理過程でこうなることを予想出来なかったのかな?
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