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梟首一郎はそれを驚いた表情で眺めていた。
「毎年、柏餅余るのにどうして……」
あたしはドヤ顔で柏餅を一個手に取り、梟首一郎に差し出した。
「食べてみ?」
梟首一郎は柏餅を口に入れた瞬間に驚いたような顔をしてあたしに叫んだ。
「中身あんこじゃないじゃないじゃん! チョコじゃん!」
「そうよ、あんこが嫌いだって言うからチョコに変えたの」
そう、あたしは柏餅の中身のあんこをチョコレートに変えたのだ。それもただのチョコレートじゃない。餅に包みやすいように粘り気があるけど柔らかくも硬いチョコレートだ、生チョコレートに近いものだ。
あんこのとろける感じと同じチョコレートを作るのにどれだけ冷やす時間をチェックしたかの苦労によって生まれた逸品。もっと驚いてくれていいのよ。
「皮もいつもと違うよね…… いつもよりつるりとしてる…… すんげぇ噛み覚えがあるんだけど」
噛み覚えと言う日本語が存在するのかどうかは知らない。多分、舌触りのことだろう。
よくぞ気がついてくれました。あたしは心の中で梟首一郎に拍手をした。
「今回は上新粉から白玉粉に切り替えましたッ!」
「白玉粉ってあんみつやみつ豆に乗ってるやつだよね?」
「そうそう、それそれ。普通の柏餅でも使うんだけどね」
柏餅の皮の生地の粉は上新粉が一般的とされている。もちもちとした歯ごたえとあんこが噛み合わさりあんこの甘さを際立たせるからだ。
だが、今回は中身がチョコレート。上新粉で作った皮とは歯ごたえがダブり、皮とチョコレート同士がなかなか噛み合わない。
ならばどうするか。皮をつるりとした白玉粉製に変え、上手く皮とチョコが交わるようにすればいいだけのこと。
ぶっちゃけた話、子どもはどちらの粉を使ったとしても気にせず食べるだろうけど…… そのあたりはあたしのただのこだわりだ。
その時、子どもが叫んだ。
「バナナ入ってるー! お祭りのチョコバナナみたい!」
「こっちはイチゴだよ! おいしい!」
「僕のパイナップルだよ! 甘酸っぱくて美味しい!」
調理中のこと、厨房の冷蔵庫を開けると、フルーツをいくつか見つけた。先生に聞いてみたら「おやつ」で出しているものとのことで常時保存してあるとのことだった。
あたしは「これ、いくつか使っていいですか」と尋ねて見た所、あっさり了承を貰えたので柏餅の中にランダムにカットフルーツを放り込んだ。
この前、弟とチョコレートフォンデュを食べていなかったらこの発想は出なかっただろう。
こばと園のこどもの日パーティーは終わった。そして帰り際、施設の子供が皆あたしの前に整列した。
「おねえさん、おいしいかしわもちをありがとう」
今回は手間暇かけて疲れた。だが、子どもたちの笑顔でその疲れも全部山の向こうへと吹っ飛んでしまった。この笑顔が見たいからお菓子作りをしていると言ってもいいかもしれない。
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