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帰り道、天童紘汰が唐突に話しかけてきた。その片手には何処からスリ取ったのかは知らないがあたしの作った柏餅が握られていた。
「ちょっと聞いていいか? 柏餅って何菓子だ?」
「え? お菓子じゃないの?」
「ばーか。和菓子に決まってるだろ」
何よ、こんないじわるなぞなぞみたいな問題だして。小学生じゃないんだから……
「お前が作ったのは邪道だ」
天童紘汰はそう言いながら柏餅を口に放り込んだ。
「白玉にチョコ入れたのと変わりねぇな。これは柏餅なんかじゃない」
「あの子達があんこ嫌いだって言うからチョコにしただけですー。あんたにとやかく言われたくないですー」
「和菓子に対する冒涜だぞこれ。やっぱり駄目だなぁ、お前のお菓子」
あれ? 勝負挑んだつもりもないのに勝手に食べられて負けた? 旧き由緒ある和菓子屋の御曹司様から言わせれば柏餅をあんな風にするのは冒涜扱いですかそうですか。あーくやし。
「それにだ、柏餅の葉っぱの香りとチョコが合ってねぇよ。俺なら絶対食わねぇ」
はいはい、そうですか。あたしはそれを右から左に流した。あたしもそれは気になったが、子ども相手だし、チョコの風味の強さでそれはカバー出来るとしてあえてスルーすることにした。
天童紘汰は分かれ道に入ったところであたしの頭をぽんぽんと軽く優しく叩き、それからゆっくりといいこいいこと撫でた。
「けど、子どもたちを喜ばせたいって気持ちは凄い伝わってきた」
それだけ言って天童紘汰は走って去っていった。その反対側にいたエリはそれを白けた目で睨みつけていた。
「何あれ、けなしたかと思ったら褒めて…… 何考えてるのかわけわからないよね? ねぇ花緒莉?」
あたしにリエのその言葉は届かず、ただずっと天童紘汰の走り去る後ろ姿をぼーっと眺めていた。
「ちょっと? 花緒莉ぃ? どうしたの? ぼーっとしちゃって?」
リエはあたしの目の前で手を振る。あたしはその残像を残しながら振られる手を見てやっと正気を取り戻した。
「え? 何かいった?」
「聞こえてなかったの?」
「うん」
「全く…… もしかして天童くんに逆上せちゃってる?」
「じょ、冗談じゃないわよ! なんであたしがあんな和菓子屋の血糖値高そうな馬鹿ボンボン和風スイーツ脳(笑)《かっこわらい》なんかに逆上せなきゃいけないの! いくらリエでも言っていいことと悪いことがあるよ!」
「ごめんごめん、冗談冗談」
「親しき仲にも礼儀ありって言葉を知りなさい!」
あたしはリエを数発どついた。
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