2 柏餅を食べよう! 天駆けゆく子らよ

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弟が風呂に入っている間にあたしは節句料理の準備を始めた。こばと園に出る前の段階で下準備だけはしておいたので、後は焼くだけ、煮るだけ、温めるだけとなっている。 弟が風呂から上がる頃にはテーブルの上には満漢全席を思わせるような節句料理を敷き詰めることが出来た。 弟は今日の野球の試合のことを延々と話す。四番バッターがデッドボールにキレて相手チームのピッチャーに右フックを加えて退場になったとか、こどもの日にけしからんやつがいたもんだとあたしは笑った。旗じゃなくて鯉のぼりが立ったとか、鯉のぼりが上がるまでは強いとされていた球団が今は常時強い球団になったものねと、野球にあまり興味ないながらに感心を覚える。 二人である程度テーブルの上の皿を処理し終えたところであたしは今年の柏餅を出した。こばと園で作ったものの余りものだ。当然時間経過で固くなっているので再度蒸し直して元の柔らかさを復活させている。 「そうだ、今年の柏餅なんだけど……」 弟はチョコ柏餅を口に入れた。すると、弟はサムズアップのポーズを取った。 「美味しい! これ今まで作ってくれた柏餅の中で一番美味しいよ!」 そうだろうそうだろう。あたしは腕組みでドヤ顔をし、うんうんと頷いた。 しかし、これを評価しなかった男の顔があたしの中に過る。 「でもね…… これ美味しいって言ってくれなかった人がいるんだ」 すると、弟は歯をむき出しにして怒りの表情を見せた。歯にチョコがびっしりついてるよ。 「その人どうかしてるよ。こんなに美味しいのに」 味は人の好み。きっと、あいつの舌にはあたしの作るお菓子の味は合わないのかもしれない、けど、あたしはあいつに美味しいと言わせるためにお菓子で戦いを挑む。 そんなことをするあたしの方がどうかしているのかもしれない……
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