3 おいしいおいしいポテチ

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3 おいしいおいしいポテチ

梅雨時になり雨の頻度が高くなったある日のこと、あたし達のクラスは自習になった。 その教科の担当教師が雨になると頭痛がひどくなるタイプの方で、この連日の雨についにダウンしたとのことだった。 うちのクラスの連中は皆自習などせずに各自私語やらゲームやらに興じる者ばかりだ。 あたしもグループで集まって夏休みの予定の話に興じていた。うちのクラスは周りのクラスに対する迷惑も考えずにわいわいがやがやと叫びだす。あたしはカクテルパーティー効果でその喧騒に負けずに夏休みの予定の話をする。 「これ美味しいな!」 あたし達のグループの後ろで男子のグループが叫びだした。 今、大きな声を上げたのは天童紘汰…… あいつに美味しいと叫ばせるとは一体何を食べたのだろうか。あたしは凄く気になった。そもそも自習中におやつを食べるというとはけしからんやつだ。だが、周りも皆お菓子を摘んでいる。グラウンドが泥濘(ぬかるみ)のようになる大雨の日でも午後の一番ダルい時間ともなれば頭に糖分が足りなくなって眠くなるもの、お菓子の一つも欲しくなるか。 現にあたしも鞄の中につっこんでいるチョコレートプレッツェルストレートを食べたいと思っている…… 天童紘汰の所属するイケメングループは机を四つくっつけ、その上にいくつかのポテチの袋を乗せていた。ポテチの袋は側面を観音開きにし、全員で摘みやすいようないわゆる「パーティー開け」にされていた。 天童紘汰は笑顔でポテチを摘む。和菓子屋の御曹司にしては意外なものがお好きなようで。 「ポテチ美味すぎるわ~ これご飯にかけて食べても美味しいんだよ。特にコンソメパンチ」 それを聞いた瞬間に他の男子は「引いた」あたしもこんなやつに美味しいと言わせるなんてとんでもない目標を立てたものだと軽く後悔した。 「何だよお前ら、ゲテモノ食いみたいなこと言うなよ。コンソメのふりかけみたいなもんだろ?」 あたしには到底考えられないことだった。 「コンソメのふりかけなんか聞かねえなぁ」 「コンソメって動物性の出汁(だし)のことだぜ? お土産で松阪牛(まつさかうし)のふりかけとか、ジンギスカンのふりかけとか、鶏そぼろのふりかけとかあるだろ? あれと理論は同じだぜ?」 言われてみれば確かにそうだ。あたしは無茶苦茶に聞こえる理論ながらに納得してしまった。少し悔しい。 「まぁ、ご飯にかけて一番美味しいのはのり塩とうす塩のツートップだけどな。やっぱり塩は万能調味料だよ」 「お前、ホントポテチ好きだな……」 「おう! ガキの頃にポテチ好き拗らせて「和菓子屋辞めてポテチ作る仕事したい」って言ったら親父に鉄拳制裁食らったぐらいだ」 筋金入りのポテチ好きなのか…… これはいいことを聞いた。 あたしは口端を上げてニヤリとした。天童紘汰の年貢の納め時は近いようだ。
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