3 おいしいおいしいポテチ

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スライスポテトの水分がキッチンペーパーに吸い取られるまでの僅かな時間の間にあたしはフライパンに数センチ程の油を敷き、中温(170℃~180℃)になった瞬間にスライスポテトをそのまま放り込んだ。 フライヤーで揚げても良かったのだが、戸袋の奥にあり出すのが面倒くさいので、目の前にあったフライパンでも十分。 約一分後、スライスポテトの側面が茶色に染まり始めてきた。油の熱が通ってきた証拠だ。 側面が茶色くなってきたものから菜箸で一枚一枚裏返していく。菜箸で摘んだ瞬間に感じるしんなりとした「柔らかさ」を気にせずに裏返しを続けていると、始めにひっくり返した一枚がこんがりとしたきつね色になっていることに気がついた。それを菜箸で摘むと「硬さ」を感じることが出来た。その瞬間、コンロの摘みを回して油の温度を中温から高温(180℃~200℃)に上げる。 その刹那、スライスポテトが一斉にきつね色、コンビニで売っているようなものと似たような色合いになり、菜箸でつんつんと突けば「硬さ」を得るようになった。 あたしは油切り網にスライスポテトを並べて入れる。油切り網の下には油がポタポタと垂れる。そして、油が切れたところで食卓塩を満遍なく振る。台所の蛍光灯の光に反射して輝く食卓塩を化粧にしてポテチは完成! あたしは早速一枚つまみ食いをした。 揚げたてでパリっとするし、塩も振り立て、文句無しに美味しい! だが、あたしはスッキリとしなかった。 「これ、コンビニのうすしおと何が違うの?」 コンビニのポテチのうすしおと違って揚げたてで温かい、じゃがいもの芋の風味も出来たてのお陰で残っている。だけど、それだけ。コンビニのうすしおポテチとあまり大差が無い。冷めてしまえば決定的な差が出てしまう。これをあいつに出したところで「不味い」とは言われないものの、味が単調だの、薄さがバラバラだの難癖をつけられるに違いない。 「ただ、ポテチ作っただけじゃん!」 あたしはそれに気付き指を鳴らしながらテーブルにポテチを乗せた皿を置いた。 それから頬杖をつきながらポテチを続々と口に運んでいると、家のインターホンが鳴った。 シロアリ業者さんもこんな雨の中大変ねぇ。近頃はシロアリ業者の営業がよく家に来る、ポケットに仕込んだシロアリを床下木材に仕込んで無理矢理契約を迫る阿漕な会社がうちの近所に来ていると回覧板で見ていたのであたしは無視を決め込むことにした。うちの家族は皆家の鍵を持っている、インターホンなぞ鳴らすはずがない。 再びインターホンが鳴った。玄関からリビングの電気点いてるの見えてるんだから、居留守(ほうもんきょひ)されてることを察しなさいよ…… うちのインターホンはアナログなもので「鳴る」だけ。ディスプレイは勿論のこと、訪問者の声を屋内に届けることも出来ない。一応は一軒家なんだからディスプレイ付きに変えればいいのにとは思うが、父親も母親もこの辺りのことは無精なのか「別にいいでしょ」の一言で流されている。あたしとしてもこれで不便は感じないので問題はない。 その時、あたしのスマートフォンが鳴った。ディスプレイにリエと表示されているのを見て刹那の速さで電話に出た。1.5コールぐらいの即出かもしれない。
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