1 くらえ! あたしのチョコレートケーキ!

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卵と砂糖が混じり合った。ここからがジェノワーズショコラの味の決め所だ、もしかしてあいつが不味いと言ったのはここでの工程にミスがあったのだろうか。 あたしはクッキングスケールの上に乗せられたココアパウダーと薄力粉の量をみる。 ココアパウダー10グラムに、薄力粉50グラム、適量だ。 「不味いものを不味いと言って何が悪い。テメーのチョコレートケーキは現実みたいに苦いんだよ!」 ああ、思い出すだけで腹立たしいあいつの言葉。 そう言えばこの配分は友達に任せていたことを今更ながらに思い出した。おそらくは配分を逆にしたのだろう。 ココアパウダー50グラムは現実の苦さ。 勉強になった。だが、現実の苦さはこんなものではないとあたしは思う。 卵二個に砂糖にココアパウダーに薄力粉を混ぜるとチョコレート色のオーロラソースを思わせる生地が出来た。あたしはアラビア風の短剣を思わせる(へら)にこれを少しだけ乗せて、予め用意してあった小皿に入れてあった湯煎済のバターと混ぜ合わせた。 バターと混ぜ合わせたそれは茶色いクリームのような外見となった。 あたしは生地を元のボウルに戻して、全て同じ外見になるまでかき混ぜた。 全てが茶色いクリームのようになったところで、それを丸い型に流し込み、スポンジケーキの形にしたところで、空気抜きのために3回程調理台の上に軽く叩きつけた。 ケーキの空気抜き。スポンジの生地を焼く前に中に入っている気泡を抜く調理作業。 空気抜きをせずに焼くと焼き上がり後に気泡が破裂し大きな穴が開いてしまう。 逆に空気抜きをしすぎると中にスポンジが膨らみが弱くなってしまう。 適切な空気抜きの回数は3回、10センチ上から落とすこととされている。 「さて、焼かないと」 あたしは生地を予熱済みのオーブンに入れた。焼き上がりまでの25分までにやることはいっぱいある。ここでただ待っているだけの女じゃないのよあたしは。 次にジェノワーズショコラに塗るシロップの作成だ。ケーキのスポンジを噛むとほのかに香る酒の風味を生み出すものだ。 これは結構単純なもので沸騰した砂糖水に酒を混ぜるだけのものだ、その酒のチョイスが重要で、ショートケーキなどのフルーツが主役のケーキなら果実系リキュールが望まれる。 今回はチョコレートケーキでカカオやココアの甘さ苦さが主役だ。ならば合わせるべきと思ったあたしはナッツ・種子系のコーヒーリキュールを使うことにした。 たまたま、果実系リキュールとコーヒーリキュールが並べて置いてあったのはラッキーだった。流石は家庭科室。
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