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その日の夜、あたしは弟と二人で夕食を取っていた。今日はじゃがいもを出したことでメインディッシュは鍋に入れたチーズたっぷり乗せじゃがいもとベーコンの炒めものにした。この梅雨の時期、じゃがいもはいつ腐るか分からない。早く処理しないと。
「今日じゃがいもばっかりだね」
弟はじゃがいもを選り分けてチーズを絡めたベーコンばかりを口に入れる。
少しはじゃがいもも食べてくれないと作ったあたしとしては悲しいぞ。
上の方にかかっているチーズが減ってきたことで弟は鍋の底で赤茶色く焦げたチーズをガリガリと箸で削り始めた。箸の先端が丸くなるし折れるからやめてくれないかな?
「焦げた所が美味しいんだよね」
全く…… あたしは焦げを食べる弟に対して口を酸っぱくして何度も「焦げは体に悪い」と言っても聞きやしない。あたしもあたしで鍋の底面で焦げたじゃがいもばかり食べているから言う資格はないのかもしれない。
焦げはクセになるぐらいに美味しい。その香ばしい香りは発がん性物質のアクリルなんちゃらが生み出すらしいが、それすら構わずにあたし達は焦げの香ばしい香りに籠絡されて駄目だ駄目だと理解っていてもついつい口に運んでしまう。
アクリルアミド。発ガン性物質のこと、デンプンを主体とする食物(パン、ポテト)を焼きすぎると黒焦げになる、デンプンを焼きすぎるとメイラード反応と言う化学反応が起こり発生するのがアクリルアミドである。
「焼き肉でもそうだけど、ものは焼けば焼くほど美味しくなるわね」
「焼きすぎると良くないって学校の先生が言ってたよ」
「だったらお焦げ食べるのやめなさい」
「お姉ちゃんもさっきから底の方の焦げたじゃがいもばっかり食べてるじゃん」
目ざといやつだ。ガリガリとチーズ削るのに夢中かと思っていたが、しっかりとあたしの方は見ている。
「真っ黒だと駄目でその直前だったらいいらしいよ」
「かと言って…… 摂りすぎても良くないけどね」
「おいしいものはおいしいよ」
弟はいつの間にやら赤茶色く焦げたじゃがいもにまで手を出し始めた。焦げた風味が気に入ったのだろうか。
屋根瓦を穿つ雨は未だに止む気配がない。窓の外が光り、時折どぉんと言った雷音が聞こえてくる。
「雷、凄いねぇ……」
「お父さんとお母さん大丈夫かな?」
「あの二人、車だし大丈夫でしょ」
そんな話をしながらもあたし達はじゃがいもを口に入れていく。本当にじゃがいもとチーズはベストマッチすぎる…… ベーコンの油とブラックペッパーの香味がそれを更に引き立てる。この料理は母がよく作る料理だ、おふくろの味と言ってもいい。料理名は「じゃがいもとベーコンのチーズ炒め」だろうか? 具体的な料理名は分からない、母に聞いても適当に炒めただけで名前なんか考えたことないとのことだった。他の家庭でも「じゃがいも」「ベーコン」「チーズ」の三つの名前が入った正式名称の無い料理として出されているようだ。
そんなことを考えていると辺り一帯を揺らすかと思うような雷音が聞こえてきた。それと同時にあたしの中に電流が走る。この一瞬の雷鳴はあたしに閃きを与えてくれた。
あたしはスッと立ち上がりながらテーブルをバンと叩いた。弟はビクッとなりしゅるしゅると小さくなる。
「これだ…… これなら奴に勝てる」
こうしてドヤ顔でニヤリとするあたしを弟は白けた目で見つめているのだった……
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