3 おいしいおいしいポテチ

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「お前さぁ……」 天童紘汰の表情は相変わらず渋い。あたしは全身の血の気が引いた。そして、天童紘汰は重い口を開いた。 「お前、俺にお菓子で美味しいって言ってほしかったんだろ?」 「そうよ、だからポテチが好きって言うから……」 「これ、おかずじゃん。お菓子の勝負におかず持ち込んでズルくないか?」 「な…… なによ! ポテチはお菓子じゃない!」 「いーや、これはおかずだ」 「じゃあ机の上に乗ってるこれは何よ!」 あたしは隅に寄せられていたポテチの袋を指差した。 「お菓子だろ? コンビニのお菓子コーナーで買ってきたもんだし」 「あたしのこれだってお菓子よ!」 「これ、ご飯に添えても十分にいけるものじゃないか。そんなものをお菓子とは言わない。おかずだ」 「あんたにとってポテチってなんなのよ!」 天童紘汰は宙を見上げながら考え、言った。 「おかずで…… ふりかけ?」 和菓子屋の馬鹿ボンボンの食生活がこんなにジャンクとは…… こいつはご飯の食卓にポテチが乗っていても平然と箸で摘んで食べるタイプだ、間違いない。こんな右斜め上の食生活を送る男に勝負を挑んだのがそもそもの間違いなような気がしてきた…… 天童紘汰はスッと席を立った。 「朝から口の中が油まみれだよ…… ちょっとお茶買ってくる」 天童紘汰はそう言った後にあたしの側に寄り、肩をぽんぽんと叩いた。 「おかずとしては良かったぜ。これから毎日うちにおかず作りに来て欲しいぐらいだ」 あたしはその手を平手打ちで払った。 「何よ! 下らない屁理屈まで言って負けたくないの?」 「いや、おかず出してきたお前が悪いんだろ……」 ポテチはおかず。天童紘汰の言う理論、分からないことはないがなにか釈然としないものがある。周りもその気持ちは同じなのか、天童紘汰にブーイングを飛ばすものまで現れた。 ちなみに、あたしと天童紘汰のお菓子戦争はクラスの皆には周知のものとなっている。 誰が広めたのかは分からない。誰が喋ったかも分からないのに広がっていた。 天童紘汰が教室を出た後に続々と女子たちがあたしを慰めに入る。すると、リエが言い出した。 「ポテチをおかずって言うようなおかしい人に勝負挑んだのが間違いだったんだよ。やっぱりあいつ甘い物の食べ過ぎで舌イカれてるって! もう勝負挑むのやめときな?」 すると、周りの女子も賛同する。 「そうよ、お世辞でも美味しいって言えない人間の屑なんかに関わるのやめたほうがいいよ」 「顔はいいけど性格最悪じゃない、やっぱり和菓子屋の馬鹿ボンボンは駄目よ」 「あいつ死んだら絶対閻魔様に舌抜かれるからそれでチャラ! ま、閻魔様もあいつのイカれた舌なんていらないだろうけどねー」 女が三人集まれば姦しい、今回は女子皆があたしの味方をするように天童紘汰の悪口を次々と言うので余計に姦しい。 普段ならその悪口に乗るのだが、今回は何故かそんな気になれなかった。 「おかずとしては良かったぜ。これから毎日うちにおかず作りに来て欲しいぐらいだ」 天童紘汰の言うこれはある意味では勝利ではないのだろうか。一応は褒め言葉であるために言われて悪い気はしない。 もし、「油臭くて不味い」「胡椒がじゃがいもの風味を殺してて不味い」とか言われようものなら一緒に悪口を言っていただろう。 この前のように「不味い」と言われなかっただけであたしは嬉しく感じていた。これだけでも十分じゃないか。 次こそはちゃんとした「お菓子」であいつに「美味しい」と言わせてみせる! あたしはこう誓いながら紙皿をゴミ箱に投げ入れた。
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