4 回転寿司でお菓子を食す

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4 回転寿司でお菓子を食す

7月、期末テストも終わり、精神的に落ち着いたところで帰宅すると、リビングのテーブルの上に一万円札が置かれていた。その上には母の達筆な草書体のボールペン字で おとうさんもおかあさんも遅くなります。ゆうくんと一緒に美味しいものでも食べてきて下さい。 と、書かれたメモ書きが置かれていた。 いつもお仕事ご苦労さまです。あたしは両親に対して感謝をしながら一万円札を自らの財布にねじ込んだ。その刹那、弟が小学校から帰ってきた。弟は家に戻るなりにスイムバッグに入った水着を洗濯機の中に放り込んだ、そして、ソファの上にぐったりと寝転んだ、どうやら、昼過ぎに水泳の授業があったようでお疲れの様子だ。 「勇、今日お父さんもお母さんも遅いってー 夜はお姉ちゃんと外出るよー」 その瞬間、弟は満面の笑みを見せた。子どもは外食が出来るとテンションが上がる。 「何食べにいくの?」 「あたしは何でもいいんだけどねぇ」 「僕も何でもいいんだけど」 外食の行き先を問うと帰ってくる率の高い言葉「何でもいい」聞いてる本人も「何でもいい」ためにこの答えが一番困るんだけどなぁ…… 「ラーメン」 「いやぁ……」 あたしは目を反らし困ったような顔を見せた。ラーメンなら休みの日町中に出てふらりと食べている、学校が終わって小腹が空いた時にもふらりと食べている。予算一万円もあるのに普段の外食と同じ様なことはしたくないかな。 「今日はお金あるから豪勢なものにしましょうよ」 「カレー」 いくら価値がわからない弟でも豪勢なものにしようと言われてカレーとは…… この予算だったらホテルのカツカレー二人前や伊勢海老入ったカレー食べてもお釣りくるよ! そもそも、こんな地方都市なんかにこんな高級カレーを出す店なんかない!  この辺りでカレーを出す店と言えば駅前のカレー店でネパール人が出す本格派インドカレー(え? インド人が出すんじゃないの?)ぐらいだ。一番高いカレーでも二人で1500円程度、これでは豪勢とは言い難い。 「焼き肉」 「嫌、匂いつく」 「僕は気にしないけど」 「あたしが気にするの。焼き肉は却下」 弟よ、あなたにどこの馬の骨とも知れない悪い虫がついた時に、その()に「焼き肉行きたい」って言った時に今のあたしの気持ちがわかるはずよ。女の子は匂いつくの気にするものよ。 「じゃ、ステーキ」 「どこの?」 「ファミレス」 豪勢だと思ったがやはり子どもの発想か。ファミレスのステーキは悪くはないのだが、1000円前後の肉で豪勢さを感じるかというと微妙なもの。折角お金はあるんだし…… 「ステーキハウスに行きましょう」 あたしの家から行けるステーキハウスは全国チェーン店だ。安いメニューを頼めばファミレスのステーキと似たり寄ったりの肉が出てくるが、リブロースやらサーロインを扱っているために高級感を味わうことが出来る。ナイフを軽く通す、いや、割り箸を深く入れただけでサクサクと切れる肉の感動を味わってくれ給えよ、こんな肉、滅多に食べられないんだからね。肉が本番だからね! サラダバーのパスタやドリンクバーで炭酸飲料タプタプになるまで飲んで腹膨れたなんて言ったらボディーブローでもくらわせてやる。 余談だが、このステーキハウスで一番美味しいのは食後に貰える梅風味の飴だと思う。一度食べて心を奪われ、店員にどこで売っている飴か教えてもらおうと思ったのだが「企業秘密」とのことで、教えてもらえなかった。中学校の時の社会科見学の一日職場体験で門外不出とされるオリジナルステーキソースの作り方やオリジナルドレッシングの作り方まで教えてくれたのに…… あの飴はレシピよりも重要度が高いのだろうかと未だに疑問に思う。 「じゃ、日が暮れる前にさっさと行きましょう」 あたし達の住む場所は比較的治安の良い地方都市、でも、夜道を女子高生と小学生男児の二人で歩くのはよろしくない。7月で日も長い、暗くなる前に夕飯を済ませて帰る予定を立てた。
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