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あたし達がしばらく歩いていると、夜空に唯一輝くUFOの様に明るいお店が目に入った。その傍らには青い法被を纏った燕がウィンクをしている回転看板が建っている。回転寿司全国チェーン店のつばめ寿司だ。あたしも年に数回はお世話になっている。
「お寿司……」と、弟がポツリと呟いた。あたしはそれに対して頷いて肯定のサインを見せた。
寿司であれば回っていようが回っていなかようが何故か豪勢に感じるのは庶民根性が染み付いている証拠だろうか。そもそも寿司は江戸の庶民のB級グルメだったはずなのにどうして高級食にまでになったのだろう……
外から玄関を見ると人が溢れかえっていた。しまった、夕方のピーク時に来てしまったか。
もう少し空いている店は無いものかと辺りを見回した瞬間、弟は叫んだ。
「おなかすいたー」
弟は繋いだ手を離してつばめ寿司の中に駆け込んでいった。
もう…… あたしは数時間待ちを覚悟して弟を追いかけ、つばめ寿司の中に入った。
つばめ寿司待合室はソファーが全て埋まるぐらいにごった返していた。何とか空いている席を見つけたあたしは腰を下ろす、弟はと言うと待合室中央に置かれた水槽をじっと眺めていた。水槽ではストライプの魚が悠々と泳いでいる、普通ならディスカスが泳いでいると考えるが、寿司屋と言うことを考えると石鯛という線も外せない。一体どっちなのかガン見してやりたかったが、今席を立てば席を取られるのでやめておいた。
すると、弟が一枚のチラシを持ってきた。
「ほら、今和菓子キャンペーンやってるよー」
何で寿司屋で和菓子のキャンペーンなんてやってるのよ。あたしは弟からチラシを引くようにぶんどった。
夏の和菓子キャンペーン開催!
夏の暑い時期だからこそ冷たい和菓子を!
今日日の回転寿司はラーメン、うどん、そば、カレーライス、カレーパン、ハンバーガー、丼物、フライドポテト…… 何でもありだ。最近はケーキまで扱い出したとか、こうなるとあんみつやぜんざいなんかも扱っても何も違和感は無いか。近頃は回る寿司を取らずにサイドメニューだけで腹を膨らます家族連れもいると言う。
寿司屋のファミレス化が止まらないと言う新聞記事を見た時は眉をひそめたものだけど、寿司以外にも目玉メニューが出来たことでの集客、ファミレス層の取り込み、レーンで料理を運ぶことでの人件費削減に成功したらしく、回転寿司業界は未曾有の盛り上がりを見せている。
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