4 回転寿司でお菓子を食す

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「あら、この黒蜜きなこ白玉クリームぜんざいパフェっての美味しそうね」 あたしが舌を噛みそうな長い名前のパフェを言っていると、見慣れたロゴマークが横に描かれていることに気がついた。 「天童赤鷹…… どうして……」 あいつの店だ。あいつの店も多角経営に乗り出したのか回転寿司屋のスイーツの監修まで始めたと言うことか。よく見れば、チラシの隅の方に「当店の甘味は全て天童赤鷹監修です」と書かれている。 あいつの名前である天童を見るだけで胸糞が悪い。あたしは柏手を打つようにチラシを二つ折りにした。パァンと言った軽快な音が辺りに響くが待合室の喧騒にかき消される。 それでも隣に座っている人だけには聞こえたようで慌ててこちらに首を向けてきた。 「あ…… ごめんなさ……」 あたしは謝りかけてその口を止めた。目の前にいたのが天童紘汰だったからだ。 あたしは知らぬとは言えあいつの隣に座ってしまったのか、何たる迂闊な。 「白鳥…… 何でここに」 あたしは内心で舌打ちをして心を落ち着かせたところで、声を低くして喧嘩腰の口調に変えた。 「何よ、寿司屋に寿司食べに行く以外何かあるの?」 「近頃は寿司屋にラーメン食いに来る奴多いらしいぞ」 ラーメンは魚ベースの出汁がかなり美味しいらしい。寿司屋であれば魚介系の出汁はよりどりみどり、いつかは寿司屋がラーメン業界で天下を取るのではないか。 「あんたこそどうして…… 家がお金持ちなんだから回らない寿司行きなさいよ」 「おいおい、お前金持ちに対して変な偏見持ってないか? 金持ちでも回る寿司ぐらいは行くぞ」 金持ちと言うことは否定しなかったぞ、こいつ。やはり嫌味な無自覚系馬鹿ボンボンか。 コンビニポテチが好きなぐらいだし、庶民的なところもあるかとあたしは納得しておいた。 「この店、うちの近所にあるお膝元店舗だからな。コスト削減とか言って古い小豆使われたらうちの評判に関わるんでな。抜き打ちチェックに来てるんだよ」 天童赤鷹の御曹司様自らが抜き打ちチェックとは…… 案外人員不足なのかな? 「高校生が一人で回転寿司って難易度高くない?」 「いや、別に気にしない。基本外食する時は一人だから」 孤独を愛する何とやらか。趣味は釣りっぽそう。 「そういうお前こそ一人じゃないか? 親と一緒に来て席取りでもやらされてんの?」 「弟と二人よ」 あたしは顎で弟を差した。弟は水槽をじっと眺めていた。あれはディスカスなのか石鯛なのか後で聞いてみよう…… 多分分からないだろうな…… 「えらい歳の離れた弟だな」 うるさいな、他所様の家族計画に文句を言うんじゃないよ。あたしは軽く天童紘汰を睨みつけた。 ちなみに、あたしの父は四人姉弟の末っ子で上三人が女で唯一の男だ。上三人、つまりあたしの叔母達は嫁入りし、白鳥の苗字を捨てている。最後に残った父が結婚して生まれたのがあたし。あたしは女である故にいつかは誰かの元にお嫁に行ってしまう(今は想像も出来ないし、貰ってくれる奇特な人がいるかどうかも怪しい)。そうなれば白鳥の苗字(家)は消え去ってしまう、血こそ流れているものの実質御家断絶(おいえだんぜつ)みたいなものだ、それに危機感を覚えた父はあたしが生まれて10年後に白鳥の名を残す跡継ぎを作るために頑張った。 こうして、あたし達姉弟は昔の特撮ドラマにありがちな年齢差のある兄弟になってしまったのだ。 別に恥ずかしがることでもないので暇つぶしに話をしても良かったが、相手がこいつなら話は別、話をする程仲良くもないし、義理もない。
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