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「次はガナッシュか」
ガナッシュ。溶かしたチョコレートに生クリームを混ぜた柔らかく歯ざわりの良いチョコレート。トリュフの中身やチョコレート表面に塗るのに使われている。
あたしは用意していたチョコレートを溶かし、それに温めた生クリームを混ぜた。そして先程のシロップに使って余ったコーヒーリキュールを入れた。
あたしはそれを一舐めして味見をする。調理実習の時に比べて甘い、それにまろやか。
「苦い」と言われたことがトラウマになっていたあたしは甘めにするためにスイートチョコレートとミルクチョコレートの割合を逆にしたのだ、もうこれで苦いとは言わせないぞがははは。
スイートチョコレート。カカオマス(カカオを加工したものを冷却、固化したもの)とカカオバター(カカオマスから脂肪分を抽出したもの)から作られる。
ミルクチョコレート。スイートチョコレートの成分に乳成分を加えて作ったもの。
スイートチョコレートに比べてカカオ分が低く味もまろやかなものになる。
ガナッシュを混ぜ終わったところで調理実習室に
ちん!
と、言ったオーブンの通知音が鳴った。ジェノワーズショコラが焼き上がったのだ。
あたしは宝箱を開けるようにオーブンの取っ手を引いた。中から湯気を上げたジェノワーズショコラの姿が現れる。
その茶色く黒いドーム球場のような姿を見て、空気抜きの失敗もしてないし、焼き上がりも上々であることを確信し、ガッツポーズを取った。
「か・ん・ぺ・き」
ジェノワーズショコラが冷めた後、あたしはジェノワーズショコラを水平にスライスし、4枚に切り分けた。
どうでもいい話だけど、このケーキを水平に4枚に切り分ける技術、凄いことらしい。
現に調理実習の時に他の班はその切り分けが上手く行かずに歪なケーキばかりとなっていた。
だが、あたしの班はあたしがこうして完璧にスライスしたせいか見た目がキレイなケーキだった。
家庭科の教師も息を巻くぐらいに驚いていた。
あたしからすれば昔からお菓子作りの一貫でケーキを作っていただけの話だ、何を驚くことがあるのだろうかという気分だった。
コツとしては包丁を温めてスポンジに通りやすくしたり、切り口がギザギザにならないように包丁を小刻みに動かすことなのだが…… あたしはこれを独自に編み出した技術だと思ってドヤ顔をしていたのだが、プロのケーキ職人やパティシエさんからすれば当然のことらしい。
井の中の蛙大海を知らず。とはまさにこのこと。
ジェノワーズショコラのスライスを終えたあたしはシロップを断面に打つことにした。
シロップを打つ。ケーキのスポンジの断面にはけを使って塗ること。
ペンキ職人のように広げて塗るのではなく軽く叩きつけるように染み込ませる動作から
打つと言う表現が使われている。
ジェノワーズショコラの断面がしっとりとしたところで、上からガナッシュを広げるように多めに塗った。その上にまた生地を乗せる。それを三回繰り返して四段重ねのケーキの形となった。
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