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あたし達はそのお言葉に甘えてテーブルに同席することにした。弟はテーブルに就くなりに注文用タブレットを手に取り、瞬く間に穴子を四皿注文した。
「こら!」
「別にいいよ。俺、うち監修のスイーツメニューしか頼まないから、胃に余裕持たせて時間空けて注文したいんだ」
「ごめんね…… うちの弟が迷惑かけて」
あたしは天童紘汰に謝りながらお茶を淹れた。天童紘汰はその間にタブレットで白玉クリームぜんざいなどのあんこ系統のメニューを注文していた。その間に弟はレーンより回ってきた数周し萎びた穴子の皿を取った。それを見ていた天童紘汰は「あれ?」と言った感じの顔をして首を傾げていた。
「今、穴子注文したよね? どうして穴子取るの?」
弟は満面の笑みで高らかな声で天童紘汰に叫んだ。
「僕、穴子だーいすき」と、言いながら穴子のタレを萎びたネタにかけ、一口で二貫を口に放り込み、ハムスターのように口を膨らませながら咀嚼する。見ていて恥ずかしいからやめて欲しいがやめてくれない。回転寿司に来る度に弟はこんな感じだ。
「穴子美味しいもんなぁ」と、天童紘汰が言った瞬間に再び穴子がレーンにやってきた。
弟はそれを疾風の動きで確保し、自分の前に置く。
「また穴子かよ……」と、天童紘汰が呆れ顔で弟を見つめている。
あたしは申し訳無さそうに言った。
「ごめんね…… この子、穴子しか食べないから……」
「変わってるな…… マグロとか玉子とかは?」
「ああ、ダメダメ。この子、本当に穴子しか目にくれないから」
その時、新幹線を意匠にした高速レーンより穴子四皿が運ばれてきた。弟はこれまた瞬く間に四皿を回収し、自分の目の前に置き、ドボドボと穴子のタレをかけはじめた。
「見てるだけで甘ったるくなってきたよ」
和菓子屋の息子がそれを言うか。しかし、弟が変わっているのは間違いないのであたしはそれに対して反論はしない。
高速レーンが空になった刹那、再びレーンが埋まる。今度は天童紘汰が注文したスイーツメニューだ。
天童紘汰はそれを食べ、一口食べる毎に何やらスマートフォンでポチポチと打ち込んでいく。
「何してるの?」
あたしが尋ねた瞬間に天童紘汰は焦ったような顔をして「しー」のポーズを取る。そして、小声で言い出した。小声ではあったがカクテルパーティー効果のせいか声はハッキリ聞くことが出来た。
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