4 回転寿司でお菓子を食す

7/12

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「俺、この店のメニューの査察に来てるんだよ。もし、天童赤鷹の人間が来てるって店に知られたら、いきなり畏まった見本品みたいなの作るだろ?」 こういったことは抜き打ちでやるから効果がある。もし、前もって査察を予告したら、その日だけは店の掃除を念入りに行ったり、料理も丁寧な作りにしたりで、その店の「普段」ではなくなってしまう。小学校、中学校の時に市のお偉方が来る時だけは掃除を丁寧にやったり、授業中ハキハキと答える練習をさせられた上でハキハキさせられたり、挨拶の練習もさせられたなぁ…… お偉方は「つくられたもの」と言うことに気がついてないのだろうか。 飲食業の査察ともなれば、こうして「つくられたもの」で一時的に査察を乗り越えたところで普段が駄目ならどうしようもない。天童紘汰はそれを分かっているからこそ、お忍びでこの店に来た。流石は御曹司、自分の店のこともこの店のことも考えていると言うことか。 あたしはふと気になることがあったので尋ねてみた。 「そう言えば、どうしてテーブル席? それも一人で」 「あ、今それ聞いちゃうんだ……」 「別にどうでもいいんだけど」 「男が一人、スイーツばっかりテーブルに並べてるの見たらどう思う?」 「あ…… そりゃあ何か変な目で見ちゃうかもね」 「そうそう、前に査察やった時に他の客がチラチラ見てくるのがウザくてな……」 そう言えばこの席、端席で他の客からは一切見えない。しかし、この席からは他の席の卓上が見える、誰にも見られずに他の客のスイーツの動向もチェック出来るいい席じゃないか。 「わざわざ、この席にしてくれって予約したんだぜ」 和菓子屋の馬鹿ボンボンに見えて考えてることは考えているのか。あたしは天童紘汰に対する認識をちょっとだけいい風に改めた。 あたしは回ってくるものを適当にちょいちょいと摘み、弟は相変わらず穴子のみ、天童紘汰はタブレットで黙々とスイーツを注文し続けていた。時折、弟とタブレットの取り合いとなる。バックヤードの店員さんからすればスイーツと穴子しか注文しない「おかしな席のおかしな奴ら」って思われているんだろうな…… あたしだけはおかしくないと声を高くして叫んでやりたい。 卓上にはほぼスイーツ用の皿と穴子のタレが付着した皿しか乗っていない…… あたしが食べた分の皿は卓上の隅で寂しく低い塔を建築していた。 「おトイレ!」 弟が席を外した。その瞬間に天童紘汰はあたしに呆れたような口調で言ってきた。 「なぁ、お前の弟もうじき穴子だけで20皿突破するぜ? ガキにしては食い過ぎじゃないか」 「いつもこんな感じよ」 「穴子ってこんなに美味しいもんだったかな?」 天童紘汰は弟が次に食べようとストックしていた穴子を手にとった。小豆やらクリームやらチョコで甘ったるくなった口の中にいきなりお寿司入れて後味悪くない?
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加