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途切れなく街灯に照らされた安全道路を歩いていると、天童紘汰があたしに穏やかな口調で尋ねてきた。結局、送ると称して勝手についてきやがった。あー鬱陶しい!
「そう言えばお前、夏休みの予定は?」
「何であんたに話さなきゃいけないのよ」
「良いだろ?」
全く…… 別に隠すほどのものでもなく、健全な高校生の夏休みそのものだった為に渋々と話すことにした。
「まず、7月中に宿題は終わらせちゃうね」
「え? 宿題って8月31日にまとめてやるもんじゃないの?」
この無計画男め。和菓子屋一同、心を一つに宿題を手伝わされる職人さん達も可哀想に。
「それからは町中に買い物行ったり? 友達とプール行ったり?」
「な、何ぃ! プールだと! まさか悪の巣窟ナイトプールじゃないだろうな!」
いつからナイトプールは悪の巣窟になったのだろうか。確かに中高生で盛り上がりパリピ(パーテーピーポー)みたいなやつはいるが、あたしはその類ではない、むしろ天童紘汰の方が金で女の子引き連れてるイメージがある。
「女の子同士で市民プールよ…… 流れるプールで流しそうめんみたいに流されたり、波の出るプールで波に乗っかったり、ウォータースライダーで死ぬ思いしたりとか?」
「小学生が遊びに行くのと変わらねぇな」
「うるさいね。それはほんの一部よ…… 映画見たり、服買いに行ったり?」
「お前らのいつもの学校帰りや土日と変わらねぇな」
一々、腹の立つようなことを言う。ならあんたはどうなのよ。さぞかし高校生らしい健全で楽しい夏休みなのでしょうね?
「天童くんはどうなのよ? まさかずっと仕事って訳じゃないでしょ?」
「ああ、フランスに留学だ」
流石は金持ち。話のスケールが我々庶民とは違う。
「留学? ルーブル美術館を三日かけて回るとか、ノートルダム寺院に鐘鳴らしに行くとかそんなのじゃないの?」
「遊びに行くんじゃねぇんだよ。パティスリーで修行だよ」
「パティスリー?」
「お菓子作りが好きな割には言葉を知らねぇ奴だな。店のことだよ、ようは洋菓子店ってことだ」
生憎とあたしはフランス語には明るくない。ウィ(はい)とノン(いいえ)しか知らないよ。お菓子作りが趣味でも別に知らなくて困るわけじゃない。
ま、あたしも洋菓子作りの際にフランス語と知らずに使ってる言葉はあるかも知れないけど。メレンゲとか怪しいぞ……
「フランス語も知らないおバカで悪うございましたねぇ」
あたしは皮肉のたっぷり籠もった口調で言い放ってやった。あたしは違和感を覚えた。
「あれ? 何で和菓子職人がフランスに留学なんてするわけ?」
「さっきのドラ焼きとか見てれば分かるだろ? 和菓子も西洋文化をドンドン取り入れなきゃ駄目なんだ。うちだってあんこや薩摩芋や栗や水飴の甘さだけでやってけないからな」
「平安の世から続く和菓子屋も和洋折衷の時代ですか」
「そうしないと、生き残れないからな」
厳しい業界ですこと。まぁ、あたしもあたしで似たような業界志望故に何とも言えない。
「あっちで洋菓子の技術を吸収しつつ、和菓子を伝えたいと思うんだ。和洋折衷の和菓子職人になりてぇんだ…… 留学はその魁となる一歩目さ」
日仏親善と言うやつですか。頑張って下さいとしか言いようがない。
「留学って何日間? 夏休みずっと?」
「ああ、夏休みの始めからお盆入るまでの短い間だよ。お盆はお盆であの世から帰ってくるご先祖様達に備えるお菓子作りで店が忙しいからな、手伝わないと」
「大体、二~三週間か。短いね」
「でも、俺が行く店は超が五十個ぐらいつく厳しい店だ。俺に見どころがなければもっと早く帰ってくるかも」
「見どころがないって?」
「お菓子作りの才能が無いってこった。こうなったら俺の和洋折衷の和菓子作りの人生は食材に洋風の食材使っただけの紛い物を作るだけで終わっちまうな」
「確かにねぇ…… 仏造って魂入れずみたいな和洋折衷のお菓子になっちゃうからねぇ」
「俺は才能を認めて貰いてぇんだ」
あたしはあんたに味を認めて貰いたいんだけどね。あえてそれは言わない。
人様の作ったお菓子を「不味い」と言い放てるその腐った根性をその厳しいお店のパティシエさんに叩き直して貰ってきなさい。
「はいはい、巴里娘の御嬢様にうつつを抜かして、その才能を発揮出来ないなんてことにならないでね」
あたしが皮肉交じりの応援を投げかけると、天童紘汰は夜道でも分かるぐらいに顔を真っ赤にした。あら、意外な反応。
「ば、馬鹿野郎…… 俺は大和撫子LOVEなんだよ、金髪の顔の彫りの深い、巴里娘に興味ねぇよ」
「ふーん」
あたしはそう言いならが自らの黒髪を撫でた。
「折角の夏だし、フランス人みたいな金髪にしちゃおうかな? それで海に行って日焼けするの。ギャルデビューってやつ?」
あたしは冗談交じりで心にも無いことを言った。天童紘汰の顔は穏やかではない。
「日本人が金髪に染めたところで伸びる髪の毛は黒なんだからプリンみたいで哀れだぞ。やめとけ。それにお前がやっても似合わねぇよ」
確かに、町中を歩けばプリンを頭に付けた若者がいっぱいいる。あれは根本を染めるのが面倒くさくてああなっているのだろうか? ファッションに疎いあたしには分からない。
スルーしそうになったけど、あたしが金髪に染めても似合わないと言い放ちやがった。見たこともないくせに決めつけやがって……
やっぱり、こいつ嫌いだ。
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