5 君がいた夏祭り

2/24

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
お盆の先祖の墓参りが終わったところで、親戚一同はみな日常へと戻っていく。あたしも同じで日常の暇を持て余していた。やることと言えばエアコンがかかったリビングでさーキューレーターを回して、冷えて快適な環境にしたところで、何も考えずにテレビで高校野球を見るぐらいになっていた。お盆を過ぎれば高校野球のトーナメントももう後半戦、全国各地の高校球児の猛者たちがぶつかりあうようになっていた。 それでも、プロ野球に比べて守備がおぼつかない高校球児の守備、どれだけ点数が離れていても(限度は10点ぐらいかな?)おぼつかない守備による捕球ミス(落下点入ってのよたよたあんよ大好き!)やら浜風によっていくらでも追いつく余地があるから見ていて面白い、朝のプレイボールから夕方の最後の試合までずっと見ていたこともあった。別に野球に対してそう興味があるわけではないが、ついつい見てしまう。さすがに夕方を過ぎたときには「時間泥棒に入られた!」と、思わずその場で叫んでしまった。 別に、どこか贔屓している高校があるわけではない、ただ単に野球を見ているだけだ。最近までいた祖父母の家のある県、つまり白鳥家の本家のある県の高校はさっさと負けてしまった。縁もゆかりも無い高校だが、出身件と言うだけで贔屓目に見てしまう。そこがさっさと負けてしまった以上はどこも応援する所がない…… ちなみに、あたしの通う高校は県予選一回戦でアッサリと負けてしまった。相手は何度もシード校を打ち破る程の強豪、仕方ない。 こうしてボーッと高校野球を見ていると、インターホンが鳴った。あたしはよいしょとソファーから起き上がりリビングから廊下に出る。廊下は冷え切ったリビングとは別世界のサウナ状態となっていた。バックドラフトの炎の中を歩く消防士のようにあたしは熱気の籠もる廊下を歩く、リビングから廊下までの短い距離ではあったが頭から汗がポタポタと流れ落ちていた。 「どうも、子ども会ですー」 かつて、あたしも所属してた子ども会だ。長期休暇の際に別の町内の友達と遊びたい時にピンポイントでイベントを入れてくる嫌な組織だ。体操服を着る必要の無い私服で参加する運動会、露店も無しに公園で踊るだけの盆踊り大会、山車曳きの稚児行列、もうどこに行ったかも思い出せない遠足…… 小学生の時にはずっとこれらに参加してきた。 正直、親友のリエが一緒だったら楽しいイベントになったかもしれないが、リエは生憎と学区こそ同じだが別の子ども会、一緒に行くことはなかった。近所の友達もいるにはいたが、ただ、家が近くなだけのお友達で一緒にいるだけで楽しい友達では足り得なかった。 こんな夏休みに来ると言うことは…… 「夏休みの盆踊りですー」 来たよこのイベント…… 盆踊り大会の正しい目的そのままにただ踊って先祖の霊を慰めるだけのイベントだ。露店なんかない、うちの町内はカネがないのだろうか。しかし、うちの町内を地盤にした国会議員だけはしっかりと呼ぶ、櫓の上で必死で手をふる国会議員も票の獲得のためだけに態々東京からこんな地元の地方都市くんだりまで来ているのは見え見えだ。 その議員の選挙区全体から見れば映画館つき大規模ショッピングモールの誘致や、高速道路のインターチェンジの建造や、地元の駅の高架化などに一枚噛んでいるらしいが、うちの町内は相変わらずの田舎、あるのは地元密着スーパーに牛丼チェーンやラーメンチェーンが数件、後はレンタルビデオ屋ぐらいだろうか、これでは単なる地方都市の外れのちょっと栄えた田舎と代わり映えがしない。地元に貢献しているようで貢献してないように見える国会議員を呼ぶくらいなら露店でも作って欲しいものだ。と、上の空で夏休みの盆踊りの参加を促す子ども会の男の話を右から左に流すように聞いていた。 「勇気くんにお菓子出ますので…… 参加の方お願いします」 子ども会の男はあたしに一枚の紙を差し出した。お菓子詰め合わせの引換券だ。 お菓子詰め合わせと言っても近所にある地元密着スーパーの駄菓子コーナーのお菓子2、300円分の詰め合わせだ。 弟はこれに…… 釣られないだろうな。今は子供騙しにもおカネがかかるのよ……
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加