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弟の帯はあっさり締め終わった。弟は姿見の前でくるくると回って自分の姿を確認している、どう足掻いても浴衣の柄のせいで馬鹿ボンボンにしか見えない。そのぷにぷにほっぺに頬紅で渦巻きでも描いてやろうかな?
「そう言えば今日は誰と祭り行くの? お姉ちゃんは友達と一緒に行くからあんた連れてけないけど」
「友達って、この前の回転寿司で一緒だったスイーツしか食べない変な彼氏?」
あたしは一足飛びで弟の背後に周りヘッドロックをしかけた。ふざけたこと言うやつには喝だ! 弟は即座にタップしてギブアップした。
それに、穴子しか食べないあんたにスイーツしか食べないことを「変」と言う資格はない。
弟は頭をさすりながらバツの悪そうな顔をした。
「女の子同士に決まってるじゃない。何が面白くてあんなのと夏祭りに行かなきゃいけないのよ」
「ふーん、つまんないの」
つまらんことを先に言ったのはどっちだか。そう言えば、質問に対して質問に返されたせいで弟は誰と夏祭りに行くかの回答を聞きそびれてしまった。まさかと思うが、親戚一同から貰った夏のお年玉で子供同士で豪遊するわけではあるまいな? あたし達も夏のお年玉でささやかな豪遊をすることに変わりはない。
「お父さんとお母さん、今日はもうすぐ帰ってくるって」
両親を確保しやがった…… 弟の「あれ買ってー これ買ってー」で、両親は何でも買う。弟は夏のお年玉から一銭も身銭を切らずに夏祭りを堪能するのか、羨ましい。あたしもいい高校生でなければ父親を「パパ~」などと呼び、甘え媚びるような口調でおねだりをして夏祭りを堪能するものを。
あたしは玄関先でぽっくり下駄を履き、つま先で土間を数回とんとんと蹴り、指に挟む鼻緒をしっかりと食い込ませた。右の鼻緒が少し緩く感じるが時間はギリギリ、道中で足を止めがてらに締め直せばいいかと、その場はスルーした。
「じゃ、お姉ちゃん出るからね? 祭りで会っても声かけるんじゃないよ!」
「どうして?」
「どうしても」
外で家族と一緒にいるのを見られたくない思春期過ぎた少女の気持ちを少しは知りなさい。
男子の場合は小学校高学年ぐらいでこういうのに目覚めるんだろうな…… だけど、お姉ちゃんとしてはあなたが目覚めたとしても関係なく一緒にいてあげるんだけどな。
いつまでも一緒に行動してくれるように嫌われないことを心がけないと。
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