5 君がいた夏祭り

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町が夕焼けに染まる。あたしはその紅とも橙とも言えない色に染まる町中を一人歩いていた、その周りにはあたしと同じく夏祭りに出るのか色とりどりの浴衣を着た老若男女が歩く、流石にぽっくり下駄まで履いている本格派はあたしぐらいだろうか。他の履物はあっても草履、大半がスニーカーなどの普通の靴、動きやすさ重視と言うやつだろうか。 こつんこつんとアスファルトを鳴らすあたしのぽっくり下駄の音、 その音を覆い隠すように夏祭りの行われる神社より祭囃子の音が聞こえる。 ぴーひゃらーぴーぴゃらー、吹かれるは横笛。 ちんとんしゃんてんとんちんとんしゃんてんとん、弾かれるは三味線。 とんとことんとんとことん、叩かれるは太鼓と鼓。 この祭囃子の音色を聞くだけで夏祭りに来たことを実感し、テンションが上がると言うもの。 ぽっくり下駄の音も早くなり、脚色(あしいろ)も良くなる。あたしは鳥居に一礼をし、潜り抜けたところで、お祭り提灯が壁のように並べられているのが見えた。その前にはリエ始め、同じ高校の女友達が皆、浴衣を纏って談笑していた。 「おまたせ」 「オース、花緒莉」 あたしはリエとハイタッチし、合流を喜んだ。さてさて、これから夢のような食べ歩きタイム、大阪でもないのに食い倒れる勢い、財布が空になるまで祭りを堪能してやる。明日以降は母に債券発行(こづかいまえがり)をお願いするか、父にシャム猫のようにゴロニャンと媚びて当座のカネを引き出してやる。父親と書いてATMと読むことを始めに考えた人は下衆ながらに天才であると思う。
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