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あたし達は神社の石畳を歩き始めた…… 立ち並ぶ屋台の風景、それに混じって大道芸人が大道芸を披露する。大道芸人は道化のバルーンアートを作っている、失礼ながら下水道で子供を誘拐ってそうな道化は風船を魔法のようにぎゅっぎゅっと縛り、様々な形を作り上げていく。道化の足元にはこうして作られたバルーンアートが並べられている。しかし、この道化あまり上手くないのか、新人さんなのか、後ろに置かれた段ボール箱の中には破裂した後の風船が積み上げられている、ジェット風船をグイグイ伸ばすことを知らずに破裂させるプロ野球観戦客じゃないんだから…… 七回の表から既にバンバンと破裂音が聞こえるのが気になるのはあたしだけだろうか。
バルーンアートの道化から数件屋台を挟んだ先に別の大道芸人がいた。あたしはその大道芸に心を奪われ、思わず目の前に座り込み凝視してしまった。
「凄い、浮いてる」
仙人のような髭を蓄えた男が杖だけを地面につけて浮いているのだ。外国の路上パフォーマーとしてはよくいるらしいが、実際に生で見るのは初めてだった。あたしはどうやって浮いているのかと思い首を動かし凝視するがやっぱり浮いているようにしか見えない、ワイヤーを疑ったが、こんな所に吊るせるクレーンなんかがあるわけがない。他の皆は仕掛けが分かっているのか冷静な目で仙人を見つめている。
「花緒莉? 行くよ?」
リエが先に行くことを促すが、あたしはその声も聞かずに子供のように目をキラキラと輝かせて宙に浮く仙人の姿を眺めていた。
「もう、花緒莉ったら純粋なところあるのよね」
純粋で結構! あたしは浮いている仙人を何時間でも見つめられるぐらいに心奪われていた。
「先行くから…… 後でケータイでどこにいるかの連絡ぐらいはしてよ」
それから数十分ぐらいだろうか、あたしはずっと仙人の姿を眺めていた。透明な椅子を疑い投げ銭を仙人の尻の下に投げてみたら見事に通り抜けてしまった…… 本当にどうなっているのだろうか、この仕掛け。
そんなあたしを気の毒に思ってか天童紘汰が肩をとんとんと叩いてきた。
「なぁ? 仕掛け教えるから先行かねぇか?」
こいつのことだからシャンゼリゼ大通りで同じ様な大道芸をしている男がいて、仕掛けを聞いていたのだろう。それをドヤ顔で語られてもなぁ……
すると、仙人は地面に足を下ろした。そしてゆったりとした着物をはだけさせ、はだけた掛衿から「よいしょ」と言ったゆったりとした動きで着ぐるみを脱ぐように地面に下り立った。目の前には杖に繋がった着物が浮いている。
「杖と着物の袖が繋がってて、袖の中に杖と繋がった曲がった棒があって、その最終地点に人一人座れるようになってる椅子があるだけだよ」
こんな仕掛けだったのか…… 魔法や仙術の存在を信じかけたあたしは自分の頭をばかばかと殴りたくなっていた。
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