5 君がいた夏祭り

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あたしは不本意ながら天童紘汰と二人で夏祭りを過ごすことになってしまった。 それより、お腹が空いた…… 手始めに何を食べればいいのだろう。 とりあえず定番のたこ焼きだ。あたしは一舟注文することにした。 アツアツのたこ焼きをまずは一噛み、カリっとした硬い皮が砕ける音があたしの口を通して耳の中に入る、硬い皮は熱い生地で湿りサクッとした噛みごたえに変わる、そして、カツオと醤油をベースにした柔らかい生地の味が口の中に広がる。 この「カリ」「サク」「フワっ」の三重奏こそがたこ焼きのあるべき姿よね。そして、後味も入ってるタコを酢だこにしているお陰でさっぱりとしている。屋台のたこ焼きってこんなにクオリティ高いもんだったかなと感動を覚えるぐらいだ。 「一個貰っていい?」 天童紘汰があたしに尋ねた。甘えんな、自分で買いなさいよ。あたしが拒絶の言葉を発しようとした時には、余っていた爪楊枝に刺さっていたたこ焼きをひょいと持ち上げて口の中に入れていた。割合計算で一個60円前後くらいだろう、後で請求してやろうかな。 「駄目だな」 夜店のたこ焼きにすらダメ出しとはどんな高尚な舌をしているんだ。ポテチを美味しい美味しいという舌の割にはわがままさんめ。 「美味しいじゃない」 「たこ焼きとしては駄目だ。揚げたこ焼きだぞこれ」 「確かに始めの噛みごたえは焼いた後に揚げた感あるよね」 「一度焼いた後にサラダオイルぶっかけて軽く焼くんだよ。そうすれば皮が固くなるんだ」 「あたしもお菓子とか最後にもう一焼きとか二度揚げとかやるけど……」 「だから駄目なんだよ、普通に焼いたら水分でしなっとなるからなぁ、それの防止のためにやってるのはわかるけどな。嫌いではない」 嫌いじゃないなら「駄目」なんて言わなきゃいいのに。あたしはこいつが分からない。 「大阪の名店とか行くとな、ソースもかけないし、生地の出汁の味で勝負するんだよ。皮もカリっともサクっともしていない。あってもそこそこで中のフワッと感一本勝負」 こいつの中でたこ焼きは明石焼きしか認めないと言うことだけは分かった。 「はいはい」と、あたしは右から左に流すように聞き流した。 「よっしゃ、今度大阪行こうぜ?」 食べ歩きはしたいけど、あんたとはごめんよ。 あたしはそれを聞かない振りをしながらたこ焼きを食べ終え、空になった舟をゴミ箱に放り込んだ。
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