5 君がいた夏祭り

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たこ焼きを食べたはいいけど、不思議と腹は満たされない。まだ足りないと言うことかあたしの胃袋よ。もっと重量感のあるものを求めているのか。しかし、喉も乾いてきたな…… 明らかなボッタクリ値のジュースで喉を潤すも祭りの醍醐味、冷たいものを探して首を動かしているともっと良いものが目に入ってきた。 かき氷だ。 ガリガリガリ…… 氷を削る音が屋台の前に響き渡り、止むことは無い。繁盛(はや)っているということだろう。焼き物を扱っていない関係か、かき氷の屋台の前はひんやり寒々とした空気を感じる。 あたしは何味にしようか中腰の体勢でメニューをみているとまたもや天童紘汰が野暮なことを言い出した。 「どれ選んでも味同じなんだからさっさと選べよ」 かき氷のシロップ。数多あるかき氷のシロップだが、その実、味は全て同じである。色と香料の違いで錯覚を起こし、違う味に感じるのである。 今や世間に広く知れ渡った常識なんだからいちいち言わなくていいのに。どうでもいいが、さっきのアツアツたこ焼きで口の中を軽く火傷したのか何とも言えない違和感を覚える、ここはスタンダードな甘いかき氷よりも清涼感を求めることにしよう。 「すいません、レモンお願いします」 「おう、お目が高いな。例外を選びやがった」 かき氷レモン。色と香料の違いで錯覚を起こし、味に差異を生むかき氷であるが、いくつかのシロップには例外がある。その一つがレモンだ。 香料でもあの独特のレモンの酸っぱさは再現出来ないのか、本物のレモン果汁を混ぜてレモンシロップを作ることが多い。 レモンの控えめな酸っぱさと苦味が広がる。口の中の違和感が驚く程に消えて行く。 「俺は何にしようかな…… ブルーハワイでいいか」 「何味がわかんないけど美味しいよね…… ブルーハワイ」 ブルーハワイ。ぶっちゃけた話、青のシロップであれば味は何でも良い…… 店舗によってはラムネ味だったり、ミックスフルーツ味だったり、ソーダ味だったり、南国フルーツのいずれかの味となる。 これこそがかき氷のシロップが起こす錯覚の象徴なのかもしれない……
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