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この後も色々と食べ歩く、屋台の食べ物はあたしの腹も別腹認定をしているのかいくらでも入る入る。それを消化する勢いで歩いても歩いてもリエ達とは合流出来ない。
いつまで天童紘汰とお祭りデートをしなければいけないのか。あちらがどう思ってるかは知らないがあたしはこれをデートとは思っていない、単なる男友達と二人で夏祭りを歩いてるだけなんだ、そう、決してこれはデートではない。
お社の鳥居をくぐる直前で、両親と弟が手つなぎで歩く姿が見えてきた。ヤバい、男連れで歩いているのを見られたら父に何を言われるか分からない。夏休み明けから男を寄せ付けない虜の身にされるやもしれない。あたしは慌てて鳥居前の射的場に駆け込んだ。
「待てよ」
天童紘汰があたしの手を掴んだ。あたしの手より一回り大きく逞しい手で掴まれ、うかつにもキュンとしてしまった。だが、キュンともしていられない。もし男に掴まれている姿を父に見られようものならあたしは明日から箱入り娘まっしぐらだ。あたしは手を掴まれたまま射的場に入る。
「何だよお前…… 射撃なんてやりたいのか?」
「違うわよ! うちの家族が真ん前歩いてきたのよ!」
「何? お前のオトンにオカン? 別に見られてもいいじゃないか。むしろ俺を紹介してくれよ」
何たる無神経さだろうか。あたしのこの慌てに慌てた反応から娘煩悩な父親であること察しなさいよ。流石にこれはあたしの自分勝手かも知れない。
「はい、アベックさん2名のおなーりー」
角刈りにねじり鉢巻、年甲斐もなくランニングシャツに腹巻きに歯は黄色く染まってヤニ臭いTHIS IS テキヤスタイルの射的場の主人があたし達に話しかけてきた。射撃なんてする気無いんだけどな……
あたしはちらりと背後を見て、両親と弟が通りすぎたことを確認した。
「あ、ちょっと見てるだけです。冷やかしです」
射的場の主人は軽く舌打ちをした。
「オウヨ! 冷やかしに来たって自分から言うなんて変わってんなぁ! でもそれされるとこっちも商売上がったりなんだよ! 一発ドカンと撃ってくんなぁ」
射的場の主人はコルク銃を差し出してきた。祭りの時にしか使わないのか、しっかりと手入れがされているのか、新品同様の輝きを見せていた。もしかして、この日のために購入した新品かもしれない。
さてさて、景品は…… 箱物のお菓子が大半、それに混じってぬいぐるみ、ソフビ人形もあるけど…… 去年の特撮ヒーローばかり。
過去の特撮ヒーローを出すリバイバルブームとは言え、去年の特撮ヒーローはもう過去の存在。売れ残り品なんだろうな……
「なぁ、あの赤い人形…… 戦隊って言うんだろ? いつのだ? 今年の戦隊か?」
「去年のレッド(戦隊のリーダー)よ」
天童紘汰はこういったことは疎いのか…… 男の子はいつまで経ってもこの手の番組を見ていると思っていた。幼稚園卒園ぐらいで卒業する子もいれば、小学校卒業まで粘る子もいれば、一生涯で付き合う子もいると言う。
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