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「全く、花緒莉もさぁ…… 別に気にしなければいいのに…… 料理の好みなんて人の好き不好きなんだからさぁ…… それに天童くんの舌にあうお菓子を家庭科のおやつで作ろうって言う方が間違ってる」
あいつ。こと、天童紘汰(てんどう こうた)は普通の高校生じゃない。平安時代から続く和菓子屋の御曹司だ。その和菓子屋、天童赤鷹(てんどうあかたか)は時の権力者に献上する菓子作りを平安時代の世から任されており、おそらくは日本で一番有名な和菓子屋だ。
その本人も和菓子屋の血(血糖値高そう)を引き継いだのか、学校以外では天童赤鷹の主任として仕事をしているらしい。何度か天童赤鷹に贈答用の羊羹を買いに行ったのだが、あいつは普通に店の奥の厨房で自分より遥か年上と思われる従業員に指示を出しているのを見た。
あの歳で製菓衛生師(あたしの憧れ!)を取っているのか疑わしかったが、中学生の時点で既に取っているとのことだった。この証拠は天童赤鷹の店舗の神棚の横に立てかけてある製菓衛生師の賞状を見れば一目瞭然だ。
製菓衛生師の試験を受ける方法。国家試験を受ければいいだけなのだが、簡単な問題ではない。その前にいずれかの条件を満たす必要がある。
① 製菓の専門学校で一年間勉強をすること。花緒莉はそのルートで取得予定である。
② パティシエ(お菓子職人)として国が認める勤務先で2年以上、勤務をすること。
天童紘汰は中学、いや、小学校の頃からずっと厨房で和菓子作りの全てを仕込まれていたために勤務をしたと言う扱いになっていた。
ちなみに、花緒莉の地元のローカルニュースで「最年少で製菓衛生師取得!」と言ったニュースが流れていたのだが、それこそが天童赤鷹の御曹司の天童紘汰のことである。
「あっちはお菓子のプロなんだよ~ 趣味程度で作ってる花緒莉のおやつなんて不味いって言われても仕方ないじゃん」
リエはあたしに諦めることを促しながら冷蔵庫の戸を開けた。チョコレートケーキはすっかり冷え切り白い煙をもくもくと上げていた。
「もう冷えてるよ」
「じゃ、味見お願いできる?」
あたしはリエに味見を促した。正直、リエはあたしの作るものなら何でも「美味しい」としか言わないが、甘いか苦いかの判断ぐらいは出来るだろうとしてお願いした。
リエはナイフでショートケーキ状に切り分けたチョコレートケーキを口に入れた。目を閉じ、咀嚼したものを舌の上で転がす。
「調理実習で作ったものより甘いよ」
「でしょ? 今回はチョコレート変えてみたの」
「スポンジも変えてるよね? 前のは柑橘系の香りがしたけど、今回はナッツっぽい」
「そうそう、前のはコアントローって言う柑橘系のリキュールにしたんだけど、今回はナッツに合わせるためにコーヒーリキュールにしたの」
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