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あたしは弟の付き合いで見ているせいか、ここ数年は日曜朝は特撮ヒーローを観ることが習慣になっている。弟は小学校二年にしてまだまだ卒業する気配が見えない。
一応、架空の出来事で「ドラマ」と言うことは分かっているようだが……
「去年のレッド? 毎年毎年新しい戦隊出てるけど…… どれも同じに見えて分からねぇんだけど」
「ヘルメットとか胸のワッペンとかで一目瞭然だと思うけど」
「お前、案外ガキな所あるんだな」
ほっといてよ。主役メンバーにイケメン俳優を起用して主婦も結構見てて、内容も夜のドラマに引けを取らないぐらいにシリアスなんだから特撮ヒーロー見てるだけでガキ扱いは了見が狭いよ。主役メンバー同士で恋したり、敵に恋人がいたり、その敵同士も手柄争いの内ゲバで内部分裂を起こし、最終回で特撮ヒーローが手を下すまでもなく敵組織壊滅なんてものもあった。時々、子供向けとは思えない展開をぶっこんでくるからこのシリーズは面白い。
「弟が好きなのよね、アレ」
あたしがそういった瞬間、射的場の主人はコルク銃を差し出してきた。
「はい、五発で三百万両ね」
わぁお! 現在の貨幣価値に直せば約三千億円也。小学校の脇にあった駄菓子屋みたいなジョーク言っちゃってからに。あたしは三百円を渡してコルク銃と皿の上に乗ったコルク弾を受け取った。
あたしは片手で精一杯手を伸ばしてコルク銃を構えた。本物の銃じゃないんだし、出来るだけ手を伸ばした方が有利だろうという考えがあった。
「銃ってのはな、フロントサイトとリアサイトを合わせて撃つもんだぞ」と、天童紘汰。
いきなり何を言っているのだろうか、あたしは先のフランス語と同じで銃の用語に明るくはない。休憩時間にエアガンを構えている男子グループとは生憎と付き合いが無い。
あたしが首を傾げて「何言ってるか分からない」と無言のメッセージを送ると、天童紘汰は親切にも説明を始めた。
「銃口、銃の先っちょな? そこに出っ張りがあるだろ? その出っ張りと、引き金の上にある凸凹の凹にハマるように手を動かすんだ。その二つがハマったら、次は目標に向かってBANG《バン》だ」
専門用語を使わずにわかりやすく銃の使い方をしてくれたのは有り難い。あたしはフロントサイトとリアサイトとやらを合わせ、目標の頭に合わせた。そして、引き金を引いた。バシュンと言ったくしゃみに似たような音が射的場に響いた、コルク弾は目標の頭をかすめ、射的場を囲むように張られた紅白の布に直撃し、虚しくポロりと地面に落ちた。
「調子悪いの?」
天童紘汰はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。本当に嫌な男だ。
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