5 君がいた夏祭り

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あたしは嫌々ながら天童紘汰の背に乗った。彼の背中は先程言っていたように朝の仕込みの米運びで鍛えられているのかガッチリとしていた。僅かに触れる肩も毎日小豆や飴を大きなしゃもじで回しているのかぽっこりと膨れた筋肉の塊のようだった。 「お前、米より重いな」 当たり前でしょ…… 米袋なんてだいたい30キロぐらいなんだから、それより重いのは当然でしょ。女の子に「重い」と言うとはなんてデリカシーのない男だ。 天童紘汰は走り出した。多少見られはするものの「何だカップルか」みたいな感じで軽く流される。人の波を掻き分け広場に着いた所で天童紘汰はとんでもないことに気がついた。 「やべぇな。もう皆場所とってるよ。足の踏み場もねぇ」 本当に花火を見たいガチ勢は露店なぞ目もくれずに昨日今日からずっと場所取りをしている。たかが一地方の数千発の花火大会にもガチ勢はいるもの。広場の一番花火を見やすいスポットは全て花火ガチ勢に取られていた。一般客はそこ以外の場所をちょいちょいと摘み座る形となる。 「もう立ち見でいいよ…… 首疲れるけど」 「何があるかもわからん野っ(ぱら)に裸足で立ちたいの? お前がいいなら降ろすけど、わけわけらん虫に噛まれても知らねぇぞ」 藪蚊ぐらいは覚悟していたけど、流石に野原に裸足はちときつい。ムカデに噛まれようものなら一生モノのトラウマだ。 「仕方ねぇ奴だな。他行くぞ」 「え? 他って」 「ちょっと走るぞ」 「え?」 天童紘汰はあたしをおんぶしたまま走り出した。あたしはガッチリしっかり天童紘汰にしがみついた。背中の肩甲骨に耳を当てると激しい心拍音が聞こえる、流石に女の子一人背負っていると疲れもするか。暫く走って辿り着いた場所は小高い丘の上だった。祭り会場、いや、あたしの住む市の夜景が全て見渡せるぐらいに高い丘だった。広場の良スポットどころか、スポンサーの来賓席よりもベストポジションではないだろうか。 天童紘汰は手持ち鞄から手のひらサイズに折りたたんだビニールシートを出し、ボタンを外して地面に投げた、すると、ものの一瞬で広がり二人で座るには十分なビニールシートになった。 「おりな」 「え…… ああ…… うん…… ありがとう……」 あたしはビニールシートの上に乗り、そのまま腰を下ろした。天童紘汰のその横に座り込む。
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