5 君がいた夏祭り

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あたしは宝石箱の中身をそのままばら撒いたような光り輝く我が市を一望し、感動を覚えた。あたしは生まれも育ちもこの市だが、こうして小高い丘から見る夜景がこんなにも綺麗だと言うことを初めて知り感動を覚えていた。 「綺麗……」 あたしは思わずうっとりしてしまった。それに対して天童紘汰はチベットスナギツネを思わせるぐらいに冷ややかな目をしている。 「ショボっ」 ついに食事関係以外にもあたしの言うことにつっかかるようになったかこの男は…… 「この市の夜景が駄目ってわけじゃないんだ。最近までパリにいたからさぁ…… どうしてもショボく見えるんだよ」 パリの夜景に比べればこんな一地方都市の夜景なんぞショボく見えますか、そうですか。 そんなに綺麗な夜景が見たければ函館、長崎、東京に行けば良いものを。 「パリはな、凱旋門を中心にして放射状に道路が広がってるんだよ。その道路全部黄色い光でライトアップするから凱旋門を中心にした太陽に見えるんだぜ」 へぇ、パリの夜景ってこんな感じなんだ。凱旋門を見下ろす時点でさぞかし高いところからご覧になったのでしょうね。 「エッフェル塔の上から見たんだけどな。綺麗だぜ」 「でもさぁ、エッフェル塔にいるとエッフェル塔のライトアップが見れないじゃない? シャンパンみたいに輝くのを生でみたいな」 「エッフェル塔にいてエッフェル塔が見れるわけないだろ……」 当たり前じゃない。土産話と言う名の自慢話を聞かされる方はどう返せばいいのだろう。 「嘘?」「そうなの!(歓喜)」「凄ーい!」だけで会話を回したくなってきた。あたしは出たことが無いけど、合コンはこれだけで突破出来るらしいが本当だろうか。 「ところで、周り誰もいないけど…… こんな穴場よく知ってたね」 これ以上パリの話を聞いていても羨ましいと思うだけで、あたしには何の特もない。 話をこの場所のことに転換した。 「穴場ってか…… うちの土地なんだけどな」 「天童赤鷹の?」 「ああ、江戸時代にナントカの中納言だか大納言だか知らねぇけど、そいつに桜餅を献上したらエラい気に入られてな、この辺り一帯を褒美に貰ったけどな…… どさくさ紛れや切り売りでこの丘の辺りしか残ってねぇんだ」 桜餅のご褒美で土地をプレゼントとは…… 浮世離れした話。城をもらうとか屋敷をもらうとか今じゃ考えられない。 「だからウチの従業員全員呼んでの花見はここに決まってるし、桜餅の葉っぱもここの葉っぱを拾って使うんだ」 穴場の話をしただけなのに土地の話になって結局自慢話に回帰してしまった。自慢話は本人の話をしているだけなので本人が自慢と自覚していないのがタチが悪い。あたしが僻みっぽい性格でそう聞こえるだけなのか……
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