5 君がいた夏祭り

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『これにて、本日の花火大会は終了です…… 提供は……』 これで夏祭りも終了か。そう言えば、お盆が終わって8月ももう下旬、まもなく9月、近年では残暑こそ厳しいが、夏の間雌を求めて歌いに歌った蝉も屍となり足を閉じてアスファルトに転がり、ドローンのように飛んでいたギンヤンマもアキアカネにバトンタッチをするところ、やっぱり9月は秋なんだというイメージがやはり強い。9月を夏と主張したくなるぐらい暑いのは分かるが、やっぱり9月は秋だと思いたい。 あたしは8月の終了にアンニュイな気持ちになりながら緩んだぽっくり下駄の鼻緒の結び直しをしていた。流石に目がなれたのか結び直しはスムーズだ。キツく結んだところであたしはスッと立ち上がった。すると、まだ座っていた天童紘汰があたしの浴衣の袂をぐいぐいと掴んで引張り、座ることを促した。 「何よぉ」 「今出ると帰り客に巻き込まれて面倒だぞ。後、20分から30分待て」 あたしはその言葉に従い、20分程その場に待機して休憩をとることにした。 その間、花火すごかったねーなどと言った他愛のない話で時間を潰す。 そして、20分が経過した。 「じゃ、行くか」 あたし達は来た道を戻り、露店の並ぶ神社参道に戻った。露店は皆、店仕舞いの準備を続々と始めていた。それを見て天童紘汰が手をぽんと叩いた。 「腹はどうだ?」 「どちらとも言えない。強いて言うなら小腹空いてるから帰りにコンビニ寄ろうかなって」 「その必要はねぇぞ」 天童紘汰はチョコバナナの露店に向かって小走りで駆けていった。何やら話して数秒後、天童紘汰はチョコバナナを二本持ってきた。 「ホレ」 「え? これどうしたの?」 「貰った。こう言った食べ物の露店って一日きりだろ? 明日の在庫に回せないじゃないか。捨てるぐらいなら帰り客狙ってタダ同然の捨て値で売るか、タダで上げちゃうんだよ」 「へー」 あたしはチョコバナナを受け取り、咥えた。流石に売れ残りなせいかあまり冷えていないがそれでも美味しい、とろけたチョコの柔らかさに砂糖菓子のデコレーションの歯ごたえが意外ととマッチする。更にバナナの繊維質の噛みごたえが合わさって美味しい。 あたし達はベビーカステラの屋台の前を通りかかった。すると、ベビーカステラを袋詰めしている好々爺の店主があたし達に声をかけてきた。 「そこのアベックさん! ベビーカステラいらんかね!」 アベック…… じゃないんだけどな。しかし、男女二人連れをアベックと呼ぶとはいつの人間なんだろうか。昭和中期生まれだろう。 小さなカステラを食べるようなもの、腹の足しにはなるだろうと思い、貰うことにした。 あたし達は40個入りのベビーカステラの袋を貰い、それを一個一個摘みながら参道の石畳を歩く。 「甘くて美味しいねぇ」 「蜂蜜バターが凄いあってるなぁ、形がいびつだけど皮が固くてカリっとしてるのがポイント高い」 「ってこれ…… サーターアンダギーじゃないの!」 天童紘汰はケラケラと笑い出した。 「こりゃやられた。ベビーカステラを焼いた後に油塗って軽く焼いてるから油で揚げたみたいになってら。こりゃあベビーカステラじゃねぇ、サーターアンダギーだ」 サーターアンダギー。沖縄県のソウルフードの揚げ菓子。意味はそのまま「油で揚げたもの」砂糖が大量に使われ、中の生地の気泡もあまり無く、食べごたえがある。 「カリっ サクッ しっとり って感じよね」 「おそらく途中までベビーカステラと作り方同じで最後の仕上げで油タップリぶっかけて焼いたせいで低温で揚げたみたいになったんだな」 「美味しいんだけど…… お腹に来るわね。胃がズシーンって来てる、口の中もパサパサしてくるし、冷たいもの欲しくなる」 「この暑さだ、熱いものより冷たいものの方がよく売れる。屋台の冷たいものをタダでゲットするのは諦めるんだな。ちょっと離れた自販で我慢しな」 「流石にここまではしたないことはしないんだけどな」
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