5 君がいた夏祭り

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祭り客達も引いて人通りが疎らになる頃にあたし達も解散した。家に帰ったあたしはクーラーを効かせたリビングのソファの上で浴衣のままごろりとはしたなく寝転がる。それから思い出したようにお風呂の給湯を行い、家のものが帰ってきてすぐに風呂に入れるように準備をした。 ぽっくり下駄を挟んだ指の股がじんじんと痛い、軽く揉んで痛みを和らげていると、両親と弟が帰ってきた。今お風呂の準備したばかりなのになんてタイミングの早い。 「お帰りなさい、遅かったね」 「祭りの分だけじゃ足りなかったからファミレス行ってた」と、弟が言う。両親は弟に連れ回されてお疲れ状態なのかテーブルに就き、授業中に眠るあたしのようにだらりと突っ伏した。 いいなぁ、ファミレス。恥を忍んで両親と行動すればよかったかな…… あたしはちと後悔した。 その後「花火すごかったねー」やら、買ってもらった腰に寄生虫のようにくっつくビニール人形の話をする。ビニール人形はぴしぴしと叩くのに丁度いいのか弟はずっとその頭を叩いている。割らないように。弟はそれから買ってもらった得体のしれない玩具を床にぶちまけた。知らないうちに燃えないゴミの日に出されるんだろうな…… こういうのって。 あたしはあいつが射ち落とした人形のことを思い出した。去年まではテレビの前でキャーキャー叫んで飛び跳ねながらこのヒーローの活躍を応援していたんだ、喜んでおくれよ。 「あんたにお土産」 あたしは人形を差し出した。すると、弟の顔が渋いものとなった。 「これ、去年のやつじゃん。もう古いよ」 お祭りにあるこの手の商品で最新作のやつがあるわけないでしょ。次の作品が放送される頃には新商品切り替えの波に巻き込まれて捨て値の売れ残りになるんだから…… 店の主人だってそれを分かって捨て値の上に更に買い叩くんだから……  あたしがこんなことを考えていると、弟は信じられないことを言い出した。 「これ、射的場にあったやつだよね?」 あたしは目に見えて動揺した。どうして射的場の景品だと知っているんだ、こいつ。 「僕らも射的やったんだよ」 なるほど。入れ違いになっていたのか。 「誰に取ってもらったの」 「と、友達よ……」 あたしの目は泳いでいた。ここで自分で取ったと嘘の一つも吐けない自分の不器用さを恨む。 「この前の寿司屋の? お父さんとお母さんは気が付かなかったけど、何回かすれ違ってるよ」 周りが見えてないあたしは何と愚かだろう。 「恋人みたいだったよ」 テーブルに突っ伏した父親がびくんと動く。ジャーキング現象であることを祈りたい、恋人と聞いての反応であってほしくない。 「な、なぁに言ってるのよ。あたしはずっとエリと一緒に……」 「でもあの浴衣……」
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