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「うん、苦味が違う」
「柑橘系の苦味をコーヒーの苦味にしてみたの」
「でもさぁ、チョコとコーヒーで似たような苦味を合わせてるのに前より甘いってどういう事よ」
「単純な話、砂糖を一杯足しただけ。前は砂糖大さじ7杯だったけど、8杯にしただけ」
「ほんとよく考えるよねぇ、あたし、花緒莉のお嫁さんになって毎日お菓子食べたいぐらいだわ」
あたしはリエの言う冗談をくくくと鳩のような声で笑い、その場を流した。
けど、あたしに貰い手が無かったら「最悪リエと」と考えないことも無かった。
あたしは作ったばかりの冷たいチョコレートケーキをラップに包んだ。そして、両頬をパンパンと叩き気合を入れた。
「リエ! あの和菓子屋の馬鹿ボンボンはどこ?」
リエは上を向いて天童紘汰がどこにいるかを考えた。
「うん、天童くんだったらこの時間部活のはずだよ」
「あいつ何部だっけ?」
「陸上部…… だったと思うけど」
「あら、うちの学校部活動強制じゃないから即帰宅でお店のことやると思ってた」
「そうでもないのよ、ほら? お家が有名和菓子屋さんで毎日和菓子食べるじゃない? それで体重がブクブク増えるのが嫌でカロリー消費の多い陸上部に入ったらしいわよ」
あいつは正直な話イケメンだ。背も高校生にしては高く178センチ、髪もサラサラヘアー、眉目秀麗、家も金持ち、まさに完璧な男。
うちのクラスは男子は男子、女子は女子のコミュニティの線分けが出来ているために話すことはあまりない。あたしとあいつの始めての会話は「不味い」であった。最悪にも程が有りすぎる。
今回だって女子の調理実習の料理を男子に食べさせただけだ。ちなみに男子は女子の調理実習の時間中はロボットを作っていた、完全直立二足歩行のロボットを作っていたらしいが、機械に関しては調理器具しか明るくないあたしにはよくわからない。
女子が男子にものを食べさせれば本当に不味い場合を除いてはあんなにあからさまに「不味い」と言うことはありえない。だが、あいつはそれを平然とやってのけた。
それはあたしの趣味を否定したことに他ならない。
何もかもが完璧な男だが、人様の料理を不味いというとはお里が知れるというもの、それが更に和菓子屋の馬鹿ボンボン御曹司ともなれば余計にだ。
他の男子は皆「美味しい美味しい」と言ってくれたのに何故にあいつだけに不味いと言われなければいけないのか。
今度は甘く作ったんだ。絶対に美味しいと言わせてやる!
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