5 君がいた夏祭り

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「あれだけ似たような浴衣着た女の人がいれば似たような浴衣着た人の一人ぐらいいるでしょ」 「間違いなくねーちゃんだったんだけどな」 「他人の空似よ」 あたしは僅かに残っていたベビーカステラを弟の口に放り込んだ。これ以上の問答は無用だ。カリカリと言った咀嚼音がリビングに響く。 「オフロガ ワキマシタ」 風呂釜が湧いたアナウンスが入る。救いの一声とはまさにこのこと、助かる。 「はいはい! お風呂湧いたからさっさと入りなさい! 浴衣が汗でベトベトで気持ち悪いでしょ? あたしだって気持ち悪いんだから早く入りたいんだからね! 一緒に入る?」 正直、汗そのものはクーラーで冷えたリビングにいたお陰ですっかり乾いていたので問題なかった。あたしは弟と会話を打ち切るために強引に風呂に促した。 「ば、ばかやろう! 絶対風呂くんなよ! 絶対だからな!」 弟はその場で浴衣をぽいぽいと投げ捨て、風呂場に駆けていった。一緒に入るのが駄目で、その場で丸裸になるのは抵抗がない心理とは何なのだろうか、全く以て分からない。 その時、蟋蟀(コオロギ)轡虫(クツワムシ)などの飛蝗(バッタ)系統の虫が鳴き出すのが聞こえてきた。空を見れば輝くのは大輪の月。あたしも含め、空を見るものは皆、大輪の花火しか見ていなかった為に今日が満月と言うことはすっかり忘れ去っていた。 外は夏の残暑でまだ暑いが、風景は徐々に徐々に秋へと近づいていた。 夏も短いが、秋もまた、短い…… 「短い夏ももう終わりかぁ…… 楽しかったなぁ……」
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