6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

9月、季節はすっかり秋となっていた。8月の暑さは嘘のようにどこかに消え、肌寒く感じる。それでも冬服を着るには暑く感じるのでまだまだ夏服を着るものが多い。 あたしはいつもの様に退屈な授業を受けていた。昼食を終えたすぐの授業なので、特に眠い。そんな中で行われる授業は古文、あたしの学校の古文の教師は人を差したりせずに、ただ一人で黒板に書きながら教科書を朗読するタイプだ、自分の古文(せかい)に浸りに浸りきっているのか、授業を受ける生徒が堂々と机に突っ伏して夢見の世界に入っていようが、こっくりこっくりと船を漕いでようが、教科書で隠して何やら他事(ほかごと)をしていようが注意の一つもしない。授業態度が悪いとクレームが入るのではないかと不安になったが、今までその様なクレームが担任のたまこ先生に入ったと言う話は聞かない。 「えー、これまで源氏物語と和泉式部日記を扱ってきましたが…… 今日は趣向を変えて平安貴族の男女の間で流行った罵倒の言葉についてのお話をしたいと思います」 いつの世も男女は罵倒しあっていたのか。あたしは微睡みの中、頬杖を付きながら古文教師の言葉に耳を傾けた。 「当時の平安貴族の男子(おのこ)がイケメンとされる条件は、まず、顔が下膨れであること、京の都でおたふく風邪が流行った時は福来病と名付けられるぐらいに歓迎された出来事だったのです」 おたふく風邪になると頭がボーッとしてフラフラとする、それを差し引いても美形(当時の基準)になりたいのか、平安貴族の男子(おのこ)達よ。人間、体が資本。体を大事にしないと。 「顔が下膨れ以外にもイケメンの条件はありまして、素晴らしい和歌を詠めることが第一条件でした。むしろ、顔よりも和歌が詠めるかどうかでイケメンかそうじゃないかというのが決まっていましたね。それでも、源氏物語の末摘花(すえつむはな)を読む限りだと、一定以上の見た目は要求されたようですが」 末摘花…… 末摘花…… 普段真面目に古文の授業を受けていないからどんな話だったかが出てこない。確か象みたいな鼻を持った世間知らずのお嬢さんの話だったかな? 光源氏は顔を見てドン引きするんだけど、あまりの貧乏暮らしに同情して支援する話だったような。一時期、光源氏に忘れられて放置プレイされるんだけど、その放置プレイ中も光源氏を思い続けたことで、彼の目に止まり妻として迎えられる話だった…… ような気がする。 何だかんだでよく覚えてるな、あたし。
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