6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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「莫迦だけど、我々貴族は創造主並に偉いんだぞ! って言いたかったんでしょうね。その当て字をした貴族。もう呆れ果てるほかありません」 自己正当化もここまで来ると病気のレベルね。望月の欠けたることも無しと思えばと詠った貴族も確かこの時代の人だったような…… この貴族、見えないところでは莫迦梵梵と馬鹿にされていたのかもしれない。 その時、一人の生徒が手を上げた。 「先生、馬鹿の字が違うんですけどー」 古文の先生はにっこりと微笑んだ。 「いいことに気が付きましたね。皆さんがよく知っている馬鹿の漢字は単なる当て字なんですよ。諸説こそありますがサンスクリット語…… 古代インドの言語ですね、それに愚か者を意味する莫迦という言葉があります。それを耳で聞いて適当に漢字を付けたのが、今皆さんのよく知る馬鹿の漢字のついた言葉となります。諸説のうちの一つなんですけどね、はい。皆さんならインターネットで調べれば一瞬で分かることだとは思いますが…… 機会があれば色んな本を読んで調べてみるのも宜しいのではないでしょうか」 いい話なんだけどな…… クラスの殆どが夢見心地で誰も話を聞いていないのが惜しい。 「その莫迦梵梵という言葉なんですけど、平安貴族の間で流行語となりました。貴族同士の罵倒語みたいなものですね。中には本当に侮蔑の意味で使っている者もいましたが、検非違使…… 警察みたいなものですね、自分たちが常日頃京の都の治安を守護(まも) っているのに、貴族たちはのんべんだらりと屋敷で歌詠み…… 不満からこう呼びたくなるのも当然でしょう。後は陰陽寮の陰陽師達、彼らはいつも貴族たちから下らない依頼を受けていたそうです、物探しから来年の荘園の木の成り具合…… 気に入らない貴族の呪殺を依頼されることもあったとか、そのようなこともあって陰陽師達も貴族のことを莫迦梵梵と呼ぶようになったそうです。ここで忘れてはならないのは検非違使も陰陽師も「貴族」ということです。ただ、彼らの大半は下級貴族であった為に、殿上人のような上級貴族に対する妬みからくるものもあったのでしょうね」 五十歩百歩、目くそ鼻くそを笑う。に近いものがある。 「貴族の高貴なる女性も莫迦梵梵という言葉を使うようになりました。馬鹿程、馬鹿と言われると腹が立つもの、莫迦梵梵の男たちは貴族の女性達に腹を立てますが、その当時、貴族の女性を侮辱する言葉はありません、莫迦梵梵の対になる言葉ですね。森羅万象二局一対、莫迦梵梵の男たちは一生懸命考えます、紛いなりにも教養のある貴公子なのでどうにかこうにかして考えます。そこで閃いたのが『頭に唐菓子(からがし)の詰まったような女』です、語源はおそらくは唐菓子を食べる貴族の女性をみたことから来ると思われます。今の言い方で言うなら……」 古文の先生は黒板に莫迦梵梵と書かれた横に大きな字で スイーツ(笑) と、書いた。
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