6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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砂糖がない以上は「甘み」を何かで代用しないといけない。そもそも平安貴族が甘い物を食べていなかった可能性がある。平安貴族の甘味とは何だったのだろうか…… あたしは頭を捻って考えるが、それまで真面目に考えたこともなかったことなだけに考えもつかない。 知っている人ならいるじゃないか。あたしはホワイトボード前で退屈そうに読書にふける古文の先生に話を聞いてみることにした。 「あの、あたし達昨日先生に言われた唐菓子を作ろうとしてるんですけど」 「ほう、唐菓子ですか? 天童赤鷹さんトコで売ってるアレかね? あれは鎌倉時代に出来たものだからねぇ」 「え? 平安時代からあるものですよね?」 「いやいや、天童赤鷹さんみたいな和菓子屋さんで売ってるものはあんこが入ってるだろ? あんこと言うのは鎌倉時代に入ってきたものでして」 「つまり、平安時代に言われていた唐菓子ではないと言うことですか」 「そうなるねぇ。どう考えても粉で油を揚げただけだと味が薄いからねぇ」 「平安時代の甘味ってなんだったんでしょうね……」 「甘味どころか…… 塩味を除いては全部薄味だったはずだよ」 「塩?」 「塩と言うのはありとあらゆる料理の味の基本みたいなものだからね。魚の味だって野菜の味だって塩がないと薄くて食べられたものじゃないよ…… それに、平安時代は乾物や発酵食品を中心にした食生活だったからねぇ」 「あれ? じゃあ天童赤鷹は平安時代はどんな和菓子を作っていたんでしょうか」 「和菓子と言ってもおかずみたいなものだったからねぇ…… それこそ私に聞かずにあの御曹司殿に聞いたほうがいいんじゃないか? 私の知る限りでは栗とか蜜柑みたいな果物が多かったと聞くねぇ。甘蔦煎(あまづらぜん)と言う日本版メイプルシロップもあったらしいけど、そこそこの甘さだったそうだ。平安時代で一番甘いとされる食材は柿になるねぇ」 「柿?」 「柿食えば鐘がなるなり法隆寺。その柿」 平安時代の柿。この当時の柿は渋柿しかない、干し柿にして渋みを抜いてから食べていたとされている。それこそが平安時代最高の甘味である。
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