6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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「でも、砂糖や蜂蜜も平安時代にはすでにありますよね?」と、委員長。 「ほう、私の授業は寝てる子ばっかりだと思ったのですが、しっかりと聞いてる子がいて有り難いばかりです」 実際、あたしの班では委員長以外は古文の授業は寝ている状態だった。 「以前に砂糖と蜂蜜の話をしようとしたのですが、皆、夢うつつの状態なのでやめちゃいました」 すいません。本当にすいません。 「唐突ですが…… 風邪薬の粉末タイプの粉薬ありますよね?」 本当に唐突な話。 「これを味付けに使いますか?」 いる訳がない。最近の薬は甘いものもあるが、所詮は薬は薬。そんなものを味付けに使う訳がない。粉末ではないが、咳や痰の茶色い飲み薬はカラメルシロップを思わせるぐらいに美味しい、だからと言ってシロップとしては使うわけがない。 あたしはぶるぶるぶると首を細かく振った。 「そうですよね。薬を調味料として使うわけがないんです。平安時代では砂糖も蜂蜜も薬だったんです。そして更に言うならあの当時は薬を仏様に捧げる供物の扱いにしていたんです」 「つまり、平安時代では砂糖や蜂蜜を調味料として使ってなかったと」 「そうです」 あたしはそれを聞いた瞬間に自分の調理台に戻り、空となったボウルに再び各種粉を入れた、そして水を入れて力強くかき混ぜて生地をつくる、それから柔らかくなったところで蜂蜜を大量に入れてかき混ぜた。蜂蜜が混じり、甘い芳しい香りが広がる、蜂蜜を入れたせいかボウルをかき混ぜるのにも力が必要()るようになるが、構わずにかき混ぜ続ける。 「ねぇ? 機械の泡立て器使わないの?」 確かに機械の泡立て器を使えばものの数十秒で終わる仕事だろう。だが、あたしはあえて機械を使わずに手作業で混ぜ続けた。当時の平安貴族(使用人)もおそらくは同じように手作業で混ぜていたのだろう。あたしはそれをリスペクトした。 「さて、揚げるか」 「え? まだお団子状にしてないよ」 「いいの、今回はしない」 あたしはボウルに泡立て器を突っ込み、上げたり下げたりを繰り返す。粘性が下がったせいか泡立て器を上げるだけでぼとりぼとりと生地が落ちる。それを確認したあたしはぼとりぼとりと落ちる生地を油の中に落とした。生地は油の海の中に一旦沈み、激しく気泡を出しながら油の海面に浮かび上がってくる。 あたしは続々と生地を油の中に入れて揚げる。泡立て器からぼとりぼとりと落ちたもののせいか形は滅茶苦茶だ。だが、それがいい。
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