6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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生地を揚げている間にも他の班は続々とお菓子を提出していく。マカロン、クッキー、パンケーキ…… 様々だ。あたしから言わせれば教科書や料理本を使って作ったお行儀のいいお菓子だ。古文の先生はお行儀のいいお菓子に舌鼓を打つ。 あたし達のお菓子は一番最後に提出することになった。最後の最後まで生地を揚げていたんだから仕方ない。 あたしが古文の先生の元にお菓子を持ってくる頃にはお腹が膨れていたのか、皿に乗ったあたし達のお菓子を見るとうんざりしたような顔を見せていた。 「ああ、君たちか。朝ごはんも食べてお菓子も食べてお腹膨れてるんだけどねぇ……」 それを言うなら朝イチで調理実習の授業を行うことに決めた家庭科の先生に言ってください。家庭科の先生も先生で出ていたら食べるつもりだったのだろうか。 「やれやれ、この分じゃあお昼御飯いらなくなりそうだねぇ」 古文の先生は目の前に置かれたあたし達のお菓子が置かれた皿を眺めた。 「ほう、これが君たちが考えた唐菓子かね」 「はい」 「唐菓子…… と、言うよりは形がバラバラのあられだねぇ」 あたしは「フッ」と軽く冷笑した。そして、ドヤ顔で言う。 「唐菓子とは粉物を揚げたものです!」 あたしの言うそれを聞いて古文の先生はくくくと鳩のように笑った。 「成程、確かに唐菓子の定義は満たしているね」 古文の先生は唐菓子を数個つまみ、ポップコーンを投げ入れるように口の中に放り込んだ。 先程までほぼ無表情だった古文の先生の表情がいきなり変わる。目は見開かれ、次に次にと唐菓子を口の中に入れる。 「蜂蜜ポップコーン…… っぽいねこれ。口の中が甘ったるくなるが美味しいよこれ」 「普段なら生地に砂糖混ぜるところを蜂蜜に切り替えただけです」 「ほう、これはこれは……」 古文の先生は一心不乱に唐菓子を口に入れる。あっという間に皿の上に乗っていた唐菓子は空になった。 「噛みごたえもそれぞれ違っていたけど……」 よくぞ気がついてくれました。と、言ってもただ色んな素材の生地があったから適当に揚げただけなんだけどな…… 小麦粉、もち粉、米粉。その三種に蜂蜜を混ぜて揚げているんだ。あられのような歯ごたえのものもあれば、餅を揚げた歯ごたえのものもある、中にはサーターアンダギー状態になったものもある、味こそ同じだが、歯ごたえの違いで飽きが来ないものにしてみたのだ。もち粉を揚げたものだけは歯に挟まる可能性を考慮して他に比べて小さめサイズにしてある。 すると、古文の先生はどこからともなく採点表と赤ペンを出してあたし達の班の欄に花丸を打った。 「私は今回だけの雇われだけど、君たちが作った素晴らしい唐菓子のことは家庭科の先生に報告させてもらうよ」 評価された…… あたし達の班は皆でハイタッチをし、喜びを共有した。
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