6 頭に唐菓子の詰まったような女、莫迦梵梵たる男

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そして、次の授業までの休憩中、あたしは唐菓子を透明のビニール袋に入れて洒落たピンクのリボンを巻いてクラスの男子全員に配った。女子の調理実習の後には調理(つく)ったものを男子に配布するのが恒例行事となっていた。今回の男子の実習はプログラミングを走らせてデジタル時計を作っていたらしい、15分ごとに鐘の音(フリー音源素材)を鳴らしたり(ビッグベン?)、アナログ表示で鏡写し(ミラークロックと言うらしい)などと言った個性的な時計を作っていたとのことだった。 女子が調理実習で、男子が技術家庭科のプログラミング…… 前時代的だとは思うが、小中のプログラミングが絶望的に苦手だったあたしにとってはありがたい。 調理実習に参加した各班が作ったお菓子に舌鼓を打つ男子たち。プログラミングで頭を使った後で糖分を求めていたのか、皆、美味しそうにお菓子を食べる。そして、最後まで残していたのはあたし達の班が作った唐菓子だった。 一人の男子が文句を言う。 「おいおい、あられなんて食べたくねえよ」 「ま、いいからいいから」 あたしはその男子に唐菓子を食べることを促した。それにこれはあられじゃない、唐菓子だ。 男子は渋々そうな顔で唐菓子を口に入れた。口の中にふわぁりと蜂蜜の甘みと風味が広がる。しかし、揚げ物であるために口が乾いてくる。何人かの男子は一旦唐菓子を摘む手を止めて購買に飲み物を買いに行く、一番人気はストレートティーの紅茶だろうか。 他の男子のことはまぁいい。問題は天童紘汰だ。あいつはこれに対してどんな評価を下すのだろうか…… 今回はシンプルに蜂蜜の味で勝負しているんだ、まさか蜂蜜嫌いと言うことはないだろう、夏休み前の寿司屋の件でメープルシロップより蜂蜜の方が好きだということは分かっている。 さぁ、美味しいと言いなさい! 「駄目だな」 え? 小細工なしの蜂蜜で勝負したのに駄目なの? 一体どういうコトなのよ。 「揚げ菓子やサーターアンダギーもどきはまぁいい」 まぁいいって何よ。これだけでも美味しいって言ってくれても良いんじゃない? 「このちんまいの何だ?」 「もち粉を揚げたに決まってるじゃないのよ」 「やっぱり、あられとかおかきみたいになってるぞ。揚げ餅って言った方がいいかもしれない」 「そりゃあ元は餅米なんだから当然でしょ」 「物足りない」 足りないのはあんたの思いやりと気遣いの心じゃないの? 「お前、餅に何付けて食べる? 皆にも聞いた方がいいと思うぜ」 お汁粉ならあんこ、お雑煮なら地方の差もあるだろうけどすまし汁、砂糖醤油、きなこもち、ざっと閃いてこれだけ。後は人に言われてやっと思い出すぐらいだ。 「人の好みもあるんだけど、あられもおかきも甘いだけか? どっちかって言うと甘辛い味付けの方が多いと思うぞ、うちで作るあられもおかきも塩味の方が強いぐらいだ、その強い塩味が甘みを引き立てるんだけどな」 何このスイカに塩理論。
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